良くも悪くも「よくできた映画」という印象。よい作品というのは分かりきっていることなので、あえて惜しかった点などの感想。
ペルシャ人親子のエピソードに端的に現れているように、ありきたりの言い方で恐縮だが「9.11以降の映画」。あの事件以来、人種間の摩擦も大きくなっている、というのがあちらの国の実感ということなのだろうか。ただ車の衝突が人種間の衝突のメタファーとして物語に導入されているとか、人々の怒りや憎しみの連鎖の緻密な構成とか、「上手いな」と感心はするのだけれど、公共広告機構のコピーみたいにパッケージ化されたスローガン的で、「物語上感動する」ということ以上に胸に迫るものがなかった。
その一方で、この作品は「パルプ・フィクション以降の映画」でもある。時制の操作や錯綜するストーリーなどもそうだけれど、「UCLAの学生風なのに、黒人だからって襲われると思って目を逸らしやがった」みたいな会話をしてるそばから車強盗する(やっぱり強盗なのかよ!という突っ込み待ちの演出)、という唐突な描写の呼吸にもそれが感じられる。『パルプ・フィクション』に限らず、先行作品についてよく勉強してるというのはこの映画全編を通して感じられることだ。
ところで、地方検事の妻のエピソードのとってつけたような結末を見ると、どんな話にもオチを設けないといけないという脅迫観念に毒されているような気がした。TV畑出身だけに、そういう意味での「完成度」から自由になれないのだろうか?本当は、そういう枠組みからこぼれ出るところに作品のインパクトがあるはずだと思うんだけど。今回は物語の構造上の必然だったかもしれないが、次回はもっとそういう拘束から自由なスタイルの作品を観てみたい。
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