トゥモロー・ワールド(アルフォンソ・キュアロン)

 これも「9.11以降の映画」でしたね。 
 「ディストピアもの」は大好きなジャンルで、その理由を考えてみると、一歩映画館を出れば日常に戻れると分かっていることを前提に、どこまでも他人事の対岸の火事として「地獄めぐり」の仮想ツアーとして楽しめるから、という一種背徳的な快感があるからだと思う。だから物語や描写はリアルならリアルなほど楽しめることになる。その点、この作品は充分以上だった。
 9.11の事件から(特にロンドン同時爆破テロ以来)イギリスではイスラム教徒への圧力が強まっている。あるいは事件をきっかけに、潜在的にあった人種問題・移民問題の摩擦に拍車が掛かった。この映画ではかなり誇張して描いてはいるとはいえ、雰囲気としては同じような空気なんだろう。そう考えると、そこまでシビアな現実をあくまで「娯楽映画」の枠組みで作ってしまうなんて、相当な根性である(まあハリウッド映画ではあるけれど、根本的な問題はイギリスかどうかってことじゃないから)。あちらの国民だったら一観客として楽しむどころではなかったかもしれない。だって映画館を出ても地続きの日常なんだから。それぐらい生々しい。
☆☆☆☆☆