美術館の隣の動物園(イ・ジョンヒャン)

最近観る映画が「当たり」ばかりで嬉しい。

結婚式のビデオカメラマンをしながらシナリオライターを目指しているチュニのアパートに、チョルスという男が転がり込んできた。兵役休暇中に婚約者を訪ねてきたというのだが、彼女は前の住人で既に転居した後だった。なりゆきから休暇の間という期間限定でルームシェアすることになった2人。彼は彼女の書いているシナリオの恋愛にリアリティがないから、と合作を申し出るのだが・・・

観ているうちに、ああこれは『恋人たちの予感』みたいな「価値観を異にすると思ってた男女の友情がいつしか恋に」というパターンの変奏なんだな、と思い当たるのだけど、まさにそれに気づくくらいのタイミングで例の「熟年カップルのビデオインタビュー」が挟まれるという、監督からの目配せが! 引用的な箇所はそれだけではないのだが、この作品は全体として過去の恋愛映画の幸福な記憶を土台にした作品なんだということが、観終わったあとよく分かる。それがただのパクリに終わっていないのは、この映画の脚本に一本筋が通っていると感じさせる力強さがあるからだ。

また、物語の導入部分こそ普通考えられない強引なきっかけだけど、例えばコップをすぐ割ってしまうというヒロインのためにチョルスが買ってきた「割れないカップ」は子供用だった、というような細部への心配りが行き届いているエピソードが積み重ねられることで、作品自体は空々しいものにはなっていない。

役者面では、「サボテン女」ぶり(この言葉はまったく定着しなかったなあ)がいつしかキュートに見えてくるシム・ウナにはマジックがある。(まあもともとかわいい女優さんなんだけど。)
受けるイ・ソンジェも一見粗野なんだけど、その不器用さの陰にさりげない優しさが見えるチョルス役をとても上手く演じていた。実は「吠える犬は噛まない」での彼をみてから気になってこの作品を観てみた、という順番だったんだけど、映画初出演でいきなり注目されたのもむべなるかな。全然タイプの違うキャラクターなのに、どちらにも説得力があった。顔は地味だが四天王とかいってる場合じゃないよ。これからはイ・ソンジェだ!(アジア映画ファンにはいまさらな感想なんだろうな・・・)