愚者の街(ロス・トーマス)

 ロス・トーマス作品は初めて読むのですが、というか恥ずかしながら今回初めて知ったのですが、最高に面白かったです。

 突飛で奇矯な造形のキャラクターが繚乱でグロテスクな物語が展開するところは、ウィリアム・ゴールドマンの作品を連想しました。ノワールの現在、ビルドゥングスロマンの幼少期、エスピオナージュの過去、が輻輳しつつ緊張感を失わない巧みな構成が素晴らしかった。

 その一方で主人公ダイの数奇な来歴がかなり読ませどころなのだけど、ちょっとトレヴェニアンのシブミっぽい感じがしました。

 悪者たちが相食むクライム・サスペンスというのは、概要だけ見ればよくある話と思うのだけど、「組織」というものの政治的な振る舞いとその衝突の描写に突出したリアリティがあり(思わぬ発端から動き出す状況)、加えて、過剰に構築されているのに不思議と現実味のある登場人物たち。これらには作者の経歴とその見聞が活かされているのだろうなと思いました。

☆☆☆☆

※ところで(原著がそうなんだと思うけど)明らかな瑕疵がひとつあって、2人目の「生贄」にされる登場人物の新聞記事が1人目と同じになっているんですよね。編集担当の人は気づかなかったのかな…

チャーリーズ・エンジェル(エリザベス・バンクス)

 マックGの映画化が快調だった記憶がまだ強いので、今作はシリアスにしたいのかお気楽おもしろ路線なのか、いささか中途半端な印象でした。ありていにいってガールズ・エンパワメント路線を狙っているのだろうと思うのだけど、それは主人公たちが格好良ければ自ずと観客に伝わるものであって、映画の側からこれどうですか!と言われたら白けてしまうよなあ…

☆☆☆

燃ゆる月(パク・チェヒョン)

 この頃の韓国映画はとにかく面白いとされている他国の作品を貪欲に吸収しようとしていたのだと思います。この作品でいうと香港の武侠映画だけど(ルックやメイクが笑ってしまうほどツイ・ハーク)、何が肝なのか分かっていない。ケレンがないしシンプルなロマンもない。しかしながらこのような礎の上にいまの作品があるのだろうな、と思いました。

☆☆1/2

ブリキの太鼓(フォルカー・シュレンドルフ)

 何というか、小説にせよ映画にせよ、メタファーが効いてることがよしとされた時代の作品だなと思います。最近流行らないというかもうちょっと洗練されたのか…。あとこういう作風がカンヌ映画祭向け、とされていた時代の匂いも感じました。

☆☆☆

ワイルド・スピード/ファイヤーブースト(ルイ・レテリエ)

 なんかまあ『ハートブルー』だよね…と思ってたあの頃、いつの間にか超ビッグバジェット映画になってしまっていたんですね。(飛び飛びしか見てないので…)エンドクレジットの音楽なんてむしろ007シリーズのような雰囲気まであるような。これでもかと総決算の要素が随所にあって、エンドゲームなんだなと思いました。と思ったらあと2作もあるんですか。まあ、見るかな…

☆☆☆1/2

レザボア・ドッグス(クエンティン・タランティーノ)

 公開時以来に見たけれど、今見るとやっぱり荒いし、いかにもインディペンデント作品といった雰囲気が拭えない。(ついでにいうとそこが当時のミニシアターっぽいのが面白い。)しかし使われている音楽の発掘の先見性が群を抜いているし(というかこの映画で使われて、それが全世界的にリバイバルして、いまや定番化しているというのが本当の順番なんだけど)、撮り方も堂々としていて、やはり処女作からして才能が溢れているなという印象でした。オレンジがリハーサルをして、本番で披露して、その披露している小話の世界にそのままなだれ込んでいく、という場面の鮮烈さが当時の僕の記憶のまま甦ってきて、やっぱりすごいなと改めて思いました。

 あえて苦言するなら、どうしてホワイトはオレンジをそこまで思いやってくれたのかな?ということを納得させてくれるエピソードがもうひとつくらいほしかったかな。

☆☆☆☆

※1 しかしネタとはいえ差別的な言辞はやっぱりいかがなものかと思うなあ。その後黒人擁護的なテーマを扱ったからといって免罪されないと思うけれど。

※2 モンテ・ヘルマンがプロデューサーだったんですね。意外。

レミニセンス(リサ・ジョイ)

 てっきり『インセプション』の亜流かと思いきや、道具立てこそそうだけど、結構正統派のノワールでした。(必要な要素は全部あると思います。)舞台も荒廃した未来としては割と新鮮なイメージで悪くなかったです。でも正直それ以上のものはなかったかな…

☆☆☆