用心棒(デイヴィッド・ゴードン)

 ちょっと物語にとって都合よすぎる展開が多いのと、用心棒稼業がほとんど描かれないので看板に偽りありではないか。というか杉江松恋氏の解説の方が面白かった。

 時代の波にさらされて細部が気にかかり、過去のようにはエンターテインメントが楽しめなくなる、ということは良くも悪くもあるけれど、一方で過去から一貫して面白い作品もある訳で…率直に言って主人公は読者にとって「都合がいい男」すぎる。加えて、何というか登場人物が皆、多様性への配慮的なものへのアリバイづくりで汲々としている印象で、そういうのは後からついてくるものじゃないか?という気がして。(ドストエフスキーを読んでインテリ気取りというのも割と恥ずかしい。お金持ちの時計がロレックスというのもそう。むしろパテックフィリップとかヴァシュロンにすべき。)

 面白くなかったわけではないので続編に期待します。

☆☆☆

デッド・ドント・ダイ(ジム・ジャームッシュ)

 僕は面白かったけど、随分無茶をしているな、とは思いました。

 感想を書けばその一言に尽きるのですが、自分の中で発見があったのでもうちょっと書きます。ある映画の「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、という確固たる感覚が僕の中にあって、実は同監督の『パターソン』がそうだったのだけど、黒沢清の諸作※や『寝ても覚めても』にも同じ面白さを感じるのです。もしかしたら今泉監督作品もそうかもしれない。

 ひょっとしたら起承転結みたいな物語の結構とは別種の面白さなのでは?と常々思っていたところ、今作を見て確信を持ちました。あの結末に怒ってしまう人多数だったのはよく理解できるけど、どこかで物語を終わらせないといけないからああしただけで、正直、ゾンビを一網打尽に退治する方法が発見されました!でも何でも監督はよかったんじゃないかな。技術的にはどこまでも続けられるし、見ていられると思います。だから僕が苦手なゴダールも、好きな人にとっては「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、のではないか?ということなんですね。

・署長のクリフは死者との生前の関係性で葬ることを躊躇ってしまうのだけど、ロニーはどんな死者に対してもためらいがない(さっきあんなに楽しそうに話してたのに!)ドライさがあって逆に怖い、そして折に触れその対照性が描写されるのに物語としてはあまり寄与しないのが不思議な感じでした。

・死者がwifi~とかBluetooth~とか文明の利器に固執しているのは、生者がスマートフォンに浸りきっている姿の風刺画として、ということのようですが、星新一の作品にも生まれて死ぬまでイヤフォンからの指示で生きている人間という話がありましたね。

・先日見た『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、人間側が立て直して組織的に退治する体制を整えるのが画期的だったかも。でもそれ以前の巨大生物や宇宙怪獣ものは退治方法を発見して科学の力を称揚する、みたいなのが普通だったからその名残だったのかな。

 とはいえ、ホラーコメディと見せかけて…という言外のメッセージが核心だと思います。ああ、だからこそあの結末なのか。

☆☆☆1/2

※ とはいえ、黒沢監督はまだ「物語の枠組み」にこだわりがあるような気がします。

シン・エヴァンゲリオン劇場版(庵野秀明)

 アマゾンプライムで再見。字幕付きで見たのだけど、しらふじゃ聞いてられない思わせぶりなセリフとか、もうわざとやってるとしか思えない。あと第三村関係は細田作品的な匂いを感じて実は苦手だった。(宮崎駿風だったら飲み込めたと思う。)

 それとやっぱりゲンドウと同じ世代なのに息子の彼女、というマリの存在って手塚治虫のSF的倒錯を感じるな…(むずむずする。でもそこが好き。)

 「無駄な人間なんていない」というメッセージは本当によかったと思いました。

バトルフロント(ゲイリー・フレダー)

 ステイサム映画には、無茶苦茶期待しなければ面白く観られる「ほどよい作品」と、そんなに期待してなかったのに「実際観たらすごく面白い作品」があると思うけど、前者だったかな。スタローンの脚本はタイトなつくりでよかったですね。しかし邦題は意味が正反対では?

☆☆☆

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件(ツイ・ハーク)

 タイトルの情報量が多すぎて何となく見てなかったけど、すごく面白かった。そういえばワイヤーアクションってこんな感じだったよな、と思い出しました。思いついたアクションをライブで実現する無茶さ加減がいい!(CGでは出せない味わいがあるのです。)

 犯罪の動機と方法は理にかなっているとは言い難いのだけど、史実の枠組みの中での飛躍があって楽しかったですね。

 あと、ツイ・ハーク作品はディテールが乱暴なところがあったけど(まあ香港映画全般の勢い重視なつくりということですが)、今作は美術も良かったと思います。

☆☆☆1/2

ブックスマート(オリヴィア・ワイルド)

 最高にチャーミングな映画でした。

 嫌われることを恐れるあまり、先に距離を置いてしまえば傷つかなくて済む、と思いなして卒業前日まできちゃったけど、思い切って「飛んで」みたら実はみんないい奴らだった、という優しいお話。悪人が一人もいない※1という物語のつくりが新鮮だったし、「ギャフンと言わせてすっきりするという安易なカタルシスを求めない」という明確な意思をもって作り上げた監督が素晴らしいと思いました。

ウィル・フェレルがプロデューサーっていうあたりが分かってるな、と思う。

・ニックは誰に対しても「もてなし上手」でそれ故誰からも好かれていたのだ、とわかるのが、苦くも大人になる瞬間なのでしょう。

・僕が一番好きだったのはジャレッドで、とんでもないお金持ちの家庭なんだけど、どこか振る舞いが奇矯で、ちょっと距離を置こうかな…ってなってしまう感じ。しかし本当は誰より純真で真っすぐな青年なんですよね。頬っぺたが赤いのも相まって、セリフのいちいちに泣きそうになりました。

・作品の核になる部分が、なんだかイーサン・ケイニンの小説みたいだなと感じて。

・そして「また会おうな!」と交わした言葉は本気だったのに、そういう仲間とも2度と会わないこともあるのだろうと考えると切なくなりますね。

☆☆☆☆1/2

※ 初めて見る人ばかりなのに、どの役者さんも一流感があるのがすごかった。撮り方もあると思うけれど、キャスティングの勝利かな。

※1 だから「殺人犯」という落とし方が唯一残念だったんですよね。

バッドボーイズ フォー・ライフ(アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー)

 いろいろ設定が無茶だけど、ベイっぽさはありました。こういうのはもういいかな…(って1作目の時から思ってたような気もするけど。)

☆☆☆