デッド・ドント・ダイ(ジム・ジャームッシュ)

 僕は面白かったけど、随分無茶をしているな、とは思いました。

 感想を書けばその一言に尽きるのですが、自分の中で発見があったのでもうちょっと書きます。ある映画の「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、という確固たる感覚が僕の中にあって、実は同監督の『パターソン』がそうだったのだけど、黒沢清の諸作※や『寝ても覚めても』にも同じ面白さを感じるのです。もしかしたら今泉監督作品もそうかもしれない。

 ひょっとしたら起承転結みたいな物語の結構とは別種の面白さなのでは?と常々思っていたところ、今作を見て確信を持ちました。あの結末に怒ってしまう人多数だったのはよく理解できるけど、どこかで物語を終わらせないといけないからああしただけで、正直、ゾンビを一網打尽に退治する方法が発見されました!でも何でも監督はよかったんじゃないかな。技術的にはどこまでも続けられるし、見ていられると思います。だから僕が苦手なゴダールも、好きな人にとっては「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、のではないか?ということなんですね。

・署長のクリフは死者との生前の関係性で葬ることを躊躇ってしまうのだけど、ロニーはどんな死者に対してもためらいがない(さっきあんなに楽しそうに話してたのに!)ドライさがあって逆に怖い、そして折に触れその対照性が描写されるのに物語としてはあまり寄与しないのが不思議な感じでした。

・死者がwifi~とかBluetooth~とか文明の利器に固執しているのは、生者がスマートフォンに浸りきっている姿の風刺画として、ということのようですが、星新一の作品にも生まれて死ぬまでイヤフォンからの指示で生きている人間という話がありましたね。

・先日見た『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、人間側が立て直して組織的に退治する体制を整えるのが画期的だったかも。でもそれ以前の巨大生物や宇宙怪獣ものは退治方法を発見して科学の力を称揚する、みたいなのが普通だったからその名残だったのかな。

 とはいえ、ホラーコメディと見せかけて…という言外のメッセージが核心だと思います。ああ、だからこそあの結末なのか。

☆☆☆1/2

※ とはいえ、黒沢監督はまだ「物語の枠組み」にこだわりがあるような気がします。