唐津焼:平皿(中里太亀)

 最近、週末も仕事に出るような日々が続いていて、このまま慌ただしく年末を迎えるのもあれだから、と連休に家族旅行に出かけたのですが、子供が小さいこともあって近場で目的地は唐津に。現地ですることを特に決めていなかったので、そういえば有田や伊万里の窯元は行ったことあるけど、唐津焼はちゃんと見に行ったことなかったな、と直前になってあわてて調べて隆太窯を訪問することに決めました。
 市街地から離れた山奥へドライブすること数十分、足を踏み入れるといきなり見事な紅葉が。景色含め計算され尽くしたと思しきアプローチから見事な門構え、あ、いけねこちらは住居でした。小川を渡ってこじんまりした家屋がギャラリー。こちらも簡素ながら素晴らしい調度。よく見ると椅子はラタンのPK22。先ほどのお住まいの方もそうだけど、ギャラリーも使う人の美意識が感じられる見事なつくりです。
 さて肝心の焼き物を見ると、一筆書きのような素朴さでありながら、凛とした美しさがあり、それでいてアートピースのような作者の独りよがりは感じさせない、まるで「僕の欲しかった焼き物」の概念に形が与えられたような衝撃を受けました。そして金額は・・・これまた衝撃的!買えない・・・
 と、まあ一番格好良かった器は買えなかったのですが、よくよく見ると、買ってなおかつ使える作品もありました※1。今回はお父さん(中里隆さん)ではなく息子さん(太亀さん)の方の平皿を購入することに。
 すると奥様がいらして、「今はお茶の時間なので工房でコーヒーでもいかがですか。いまならお話もできますよ」とお招きをいただきました。ふらっと立ち寄っただけなのに恐縮しきりだったのだけど、現場を見てみたい気持ちに抗えず、ちょっとだけお邪魔しました。印象としては、特に中里隆さんはまさに焼き物仙人!なるほどこういう方が作ってらっしゃるんですね、と深く納得した次第。
 いつか予算を準備して、あの器を買いたいな・・・
※ 基本的に、飾るためでなく使える器を作る、というのが作品の趣旨とのことです。

ニセ札つかいの手記―武田泰淳異色短篇集(武田泰淳)

 いわゆるメインストリームとしての著作から外れた、知られざる奇妙な味の短編集、かと予想していたのですがさにあらず。ちょっと重めの中間小説といった趣の作品でした。
 収録作品としては、大島渚によって映画化された「白昼の通り魔」が、抜け出すに抜け出せない田舎の因習的世界観と男女の業をありありと描いていて強烈だったのだけど、表題作「ニセ札つかいの手記」が一番よかった。※:偽札を少額使うことで本物に「洗浄」する、という仕事を通じて結びついた、本業ギター弾きの主人公と依頼主の「源さん」。主人公は、淋しさに付きまとわれているような雰囲気を湛えた源さんを、どこかであなどる様な、けれども世事を構わない様子を尊敬するような、相半ばする気持ちで見ている。しかしそれよりなにより、「あんたは、僕の探し求めていた男だ」と他の誰でもない「自分」を認めてくれたことで、離れがたい思いを持つようになっている。つまるところ、主人公こそが寂しい人間である、というのが分かってくるのだが…
 というように、収録作に共通するのが「寂しい人間たち」。皆どこかしら内側に欠落を抱えながら(それを意識しながら)生きている。それが顕在化する抜き差しならない決定的な瞬間の到来に怯えながら、その一方で何とかなるさという自棄にも似たオプティミスムとともに。ではあるのだけど、描かれている事件はかなり深刻なものなのに、語り口はなぜか淡々と平熱でほのぼのとさえしている、というのが通底するトーンとして読後の印象に残りました。ほぼ初の武田泰淳だったのですが、これがこの作家の特質なのかもしれませんね。
☆☆☆1/2
※なんとなくスティーブン・キングの短編「なにもかもが究極的」を連想。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(ジェームズ・ガン)

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の時はいい意味で大人向けと書いたんだけど、こちらはいい意味で子供向けの映画だったと思います。例によってメモ形式で。
・まず、堂々たる大作をジェームズ・ガンが真正面から作りきったという点に驚いた。ハリウッドの凄さって、小品しか手掛けたことのない監督でもちゃんと大作を撮れるようなシステムがしっかりできているところにもありますよね(先日の『ゴジラ』しかり)。
・宇宙刑務所の洗浄エリアの毒々しいオレンジのような赤のようなシャワーには、トロマテイストを感じた。『スリザー』にもあったけど、ガンの一貫した姿勢には清々しささえ感じる。
・遺伝子改造アライグマのロケットが、劇中「ネズミ」とか「ハムスター」などと言われるのは、ドラえもんがタヌキと呼ばれる的なあれで、ベタだけど面白かった。最初から主人公に協力するつもりなのに素直になれなくて、手を挙げるのはいつも最後というのもハン・ソロ的で可愛らしい。
・木人グルートの「アイ・アム・グルート」としか喋れなくて、基本寡黙という設定が効いている。相棒のロケットにはそれをからかわれがちだけど(でも100%理解しているのも彼だけ)、恐らく彼は宇宙にごくわずかしかいない種族の末裔であって、グルートという言葉には誇りや特別な想いがあるのだけど、だからこそ「ウィー・アー・グルート」と発されるシーンには胸を打たれました。演じてるヴィン・ディーゼルも見事だったと思います。あとCGなのに「目の演技がすごい」というのがすごい。
・それなりに場数は踏んでいるけど、基本そこそこの実力・・・と見せかけて、実は本当に本気を出したら相当すごい!という場面が劇中いくつか用意されているのですが、そこに至る展開にメリハリがあるので素晴らしくカタルシスがありました。「かつて見たことのないアクション」というのは正直なかったけれど、演出や呼吸でこれだけ盛り上がるというのは結構な手腕です。派手な場面がつるべ打ちなのに、何故か一向にときめかない、というのは最近の大規模アクション映画にはよくある現象で、あれは要は見せ方に技術がないからなのだと改めて思った次第。※1
・演出という点では、各キャラクターのバックグラウンドというのは特に語られなくて、セリフの端々から読み取ってくれというスタンスなんだけど、そこが心地いい。物語の進行とともにキャラクター同士の関係が変化していくのも、セリフから端的に描かれる。そういう点でノヴァ軍指揮官とチームとのやりとりのグッとくることといったら・・・
・悪役がちゃんと強そうで怖いというのも重要ですね。ハンマー…
・結局、観客の理解力を信用するというのは、自身の演出力に自信があるから、というのとイコールな訳で。どこまでセリフや場面を剪定したら最も効果的に伝わるのか、時にはバッサリカットした方がすっと届くこともある。その案配のセンスこそが演出であって。最近の説明(セリフ)過多な邦画娯楽作は参照した方がいいのでは。※2
・ことしは『ウィンターソルジャー』で決まりだと思っていたけど、マーベル、豊作すぎる。これはよい夏休み映画でした。
☆☆☆☆☆
※1 例えばアクションにおける編集の重要性について、先日読んだジョン・バダムの『監督のリーダーシップ術』の中に自身の『ブルーサンダー』を引いて具体的に書かれた箇所があって、膝を打つことしきりだったということがありました。(上手く手に汗握るシーンが撮れたからといって、欲張ってただ繋いだだけでは一向に盛り上がらない)。マイケル・ベイさんも読んだ方がいいと思います。
※2 脛に傷持つならず者たちが、心ならずも成り行きから団結して、結果大きな目的を果たす、という物語から『ワンピース』が引き合いにだされていて、一緒にしてくれるなという反発もあったりするようですが、最近の世代に対しての例えとしては割と的確ではなかろうか。むしろ僕が思ったのは原作のよさを上手く落とし込めていない映画版『ワンピース』の勿体なさで、長大な原作からどういうエッセンスを抽出し、再構成したらよいか、マーベル映画から学べる点は多いと思う。

ビジネスブリーフバッグ:コーチ/ブリーカー

 今使っているナイロン+レザーのバッグが相当傷んできていたので、そろそろ買わなきゃと思っていたのですが、ジッパーが壊れたのが最後の一押しになってようやく決断に至りました。(女性はともかく、男性はバッグをどういうタイミングで購入するのだろうか?)
 オーソドックスなレザーのブリーフタイプで、というのは最初から決めていたのだけど、シャンボール・セリエだと身の程を過ぎた値段だし、シセイも些か高すぎる。でもドメスティックブランドだとカッチリしすぎていて色気に欠けるなあ…と悩んでいたら、コーチの直輸入が結構お手頃価格になっているのを発見。
 しかし男物でコーチってなあ…という逡巡がまずあり、正直、それはないだろという配色もあったりで、実際に見る前の印象は必ずしもよくなかった。そこで、まずは見てからだ、とデパートの店頭に確認にいったのですが(申し訳ございません)、シンプルかつブランドを押し出さない控えめなデザインで、これならいける!となりました。色はフォーンというタバコカラー※。
 それと特筆すべきは、充実した荷室のポケット配置。吉田カバンのデザイン室がディレクションしたのかと思われるほど行き届いた仕様。ちなみにブランドアイデンティティのタグは外しました。
☆☆☆☆☆
※率直に言って、やはり色によってはううむ…というのもあります。

靴の手入れ

 諸事情により自分のための散財がほとんどできなくなったので、物欲日誌に書くような内容もここのところあまりないんだけど、いろいろ使ってみて自分なりの定番「靴の手入れクリームリスト」ができたのでちょっと書いておきます。(手ごろな値段のもの。)
 クリーニング:諸説ありますが、基本的にクリーナーは必要ないと思う。保革クリームとしてサフィールのデリケートクリームを使用していますが、塗る過程で余分なワックスなどは取れるから。このクリームはかなり汎用性が高いので重宝します。ブックバインダーみたいなスムースレザー(ピカピカしてる感じのもの)だったら同じサフィールのレノベイターが相性がいい。
 それでもちゃんと汚れを落とすことに特化したものが必要な場合、たとえばしっとりした質感の濃色(バーガンディなど)系の革、あるいはコードバンなどにはコロニルマイルドクリーナーが使い勝手がいいです。こちらもかなり汎用性が高い。もっと汚れがしつこい場合にはモゥブレイのステインリムーバーを使っています。
 磨き:油性のいわゆるワックスだと、カピカピになって下手をすると革が割れるケースもあるので、乳化性クリームのほうが安全だし浸透しやすい。靴の修理は百貨店の靴修理専業店にしか最近は出さないようにしていて、ミスターミニットは場所によっては本当に仕事が雑なので避けているのですが(仕事の早さを売りにしてるから仕方ないけど)、クリームは意外といいです。※
 靴は本当に費用対効果が高いと思うので、手入れに堪えるもの(物理的にも)を買って10年くらい履くのがいいと思うなあ。
※いま値段を確認したらモゥブレイでも変わらないな・・・ツヤ出しクリームは一度買っちゃうと全然減らないから、ひどいやつじゃない限り代えないんですよね。

ペンダントライト:PH50(ポール・ヘニングセン)

 猫も杓子もダイニングテーブルといえばPH5っていうのがなあ・・・と思っていた時期が私にもありました。いやーベタ以外のなにものでもないのだけど、やっぱり定番の良さというものはあるのだなと。
 予算的にPH4−3も検討したのですが、印象的に小さいので複数で構成しないとパンチがない。ダイニングのアクセントとしては悔しいけれどPH5がやはりちょうどいいサイズなんですね。ただ色は白だと控えめに過ぎるので、ワサビグリーンというペールグリーンにしました。これがオーク材でまとめていたテーブルとチェアと予想以上に相性が良かったので一安心。逆にウォールナット材だと白の方がいいかもしれません。あと、これは好みですが、PH50モデルは間接光の反射板がアクセントとして赤になっているので、色をうるさいと感じる人はPH5のタイプと実際に照らした状態で比較すべきと思います。
 それと設置状況にこだわることが可能なら、コードハンガーや蝶結びみたいなのはやっぱりきれいじゃないので、ここまできたら(どこまでだ…)ケチらずにジャストサイズでぜひコードカットすべきでしょう。あと調光設備はできればあった方がいいですね。というか個人的にはPH5のポテンシャルは絞った時とMAXのときの表情の振れ幅にある、と断言したい。
☆☆☆☆☆(電球はLEDじゃない方が…)

蛇の卵(R.A.ラファティ)

 読みにくいとされる『悪魔は死んだ』が作者の既訳長編ベストだと思っていて。理由を考えると、どんなに迂遠なストーリーテリングであっても、最終的には「冒険活劇もの」というジャンル小説の枠組みに帰ってくるという安心感があったから、かもしれない。
 翻るにこの作品は、散々寄り道、飛躍したあげく、そもそも帰ってくる気がなかったという大技を使っていて、いやー厳しかったっすね。例えて言うなら『指輪物語』に対する『シルマリルの物語』的というのか、ラファティ世界のバックグラウンドが掘り下げられているものの、掘り下げることそのものが目的で、物語全体をドライブするなにかが決定的に欠けているような気がしました。
☆☆☆