聖杯伝説、英国の片田舎の狂人領主、ナチスの悪魔の実験、殺人ウィルス、そして・・・とキーワードをピックアップしただけで「その筋」が好きな読者には堪えられない溢るるシズル全開!なんだけど、実際に読んでみると落ち着いた筆致もあってそれほど突飛な印象は受けませんでした。
英国国教会の主教が暗殺された。原因はとある領主の納骨室の封印に対して厳格な意見を持っていたためらしい。領主は悪魔的な芸術の才能で知られていたが、その作品が収められているという噂なのだ。それでも進まない納骨室開放。業を煮やした開放推進メンバーのひとりはついに独断で封印を解くのだが、そこで何者かの笑い声を聞く。「あそこを開くのは間違いだ!」原因不明の急死をとげる侵入者。しかしそれは本当の恐怖の先触れに過ぎなかった・・・
「知る人ぞ知る怪作、ついに翻訳!」とか「どこに落ち着くのか先が見えないトンデモホラー+ミステリ風味」みたいな紹介が散見されて、自分の中の期待値が上がりすぎていたこともあるけれど、ジャンルのクロスオーバーが当たり前になっている今の眼で読むと、展開は予想ほどでは・・・(出版年は1969、まあSFプロパーでも弾けた作品は既にあった時代なので微妙)。ただマッケンやM・R・ジェイムズに通じる英国独特の怪奇譚のテイストがあって、雰囲気で読ませちゃうところがありました。もっと破綻するほど変でもよかったけど、そういう作家じゃないんだろうな。逆に不思議と行儀がいい感じが魅力なのかもしれないですね。
☆☆☆1/2