あるいは裏切りという名の犬(オリヴィエ・マルシャル)

 タイトルから昔ながらのフィルムノワールを予想していたら、『スズメバチ』みたいなハリウッド的方向に洗練された仏アクション、の方だった。これはまずタイトルの勝利。ナイス邦題。
 物語は時代に取り残された不器用な男たちの激突もの。ザックリいって「健さん」もの。全体としてクリシェの域を出るものではありませんでしたが、ひとつ一つのシーンが的確な撮られ方、音楽、そしてもちろん演出であるため見堪えはあります。
 悪役サイド(つまり受け役)であるジェラール・ドパルデュー演じるクランが弁解できないほどの悪者なので、こちらもあまり悩まず、気持ちよく最後まで観る事ができました。二人の過去や人物造型を掘り下げて(クランをもっと複雑微妙な設定にする等)、人間ドラマとして深化させる方向性も選択肢としてはあったかと思うけれど、これはこれで正解だったと思います。
 ところでこの作品もハリウッドリメイクされるそうで、最近の仏ノワールの秀作だった『真夜中のピアニスト』が『マッド・フィンガーズ』のリメイクだったことを考えるとねじれ現象ですね。
☆☆☆☆