今まで作者の作品はハイペリオンシリーズと、20世紀SFに収められた「ケンタウルスの死」及び90年代SF所収の「フラッシュバック」しか読んだことがなく、1作目は最高だったものの、ニューエイジ風の怪しい展開に萎えてしまったハイペリオンの4部作より、短いボリュームであるにもかかわらず、奥行きと深みを備えた「ケンタウルスの死」にむしろ強く惹かれた。
そこでこの作品集であるが、教師経験の賜物なのか、シモンズは子供の描写というか生徒の描写に特別の冴えをみせる。「ケリー・ダールを探して」「最後のクラス写真」の2連発にはかなりやられました。
もちろんそれ以外の収録作品も素晴らしく、保険、戦争、生徒、肉親の死、など同じ要素を扱っていながらそこから繰り広げられるストーリーとジャンルのレンジの広さに、器用貧乏ならぬ器用富豪という称号を進呈したいくらい。割りとかっちりとウェルメイドにオチを「決める」作家かと思っていたが、「黄泉の川が逆流する」みたいに雰囲気と余韻でしめるタイプの作品も書けるということが発見だった。
ところで「バンコクに死す」は某映画タイトルをなぞっていた訳か、と読後ニヤリとさせられる。さすがハイペリオンをものした本歌取り名人である。