マジック・マイク(スティーヴン・ソダーバーグ)

 どちらかというと『ブギーナイツ』みたいな物語だったんですね。アダムの愚かさ加減にどうしてくれようかと憤りすら感じてしまうのだけど、そういうところも芸道ものの定番かな。(なまじ面倒見がいいために、自分では気が利いてるつもりの弟分のしくじりの尻拭いをさせられて破滅する、というギャングものの定番のようでもあり。)

 個人的には、アダムの姉ブルックが「本当はストリップなんて好きじゃないのだけど、見ているうちにそのパフォーマンスに引き込まれていくのが時間経過とともに表情に現れる」という所が繊細に描かれていて良かったです。

 マシュー・マコノヒーは本人がこういう人(ボンゴ野郎)じゃないかと思われている感じを全力で体現してて面白かった。なるほど演技が評価されていたのも納得でした。

 しかし実際のところ地味な話なのに大ヒットするなんて、みんな見る目あるなあ(上から目線で恐縮ですが)。

☆☆☆1/2

ラスト・ボーイスカウト(トニー・スコット)

 話はすっかり忘れてたけど「今度やったら、殺す」とか「片が付いたらジグを踊ってやるぜ」とか「腹話術の人形」とか、ディテールはやけに覚えていました。公開当時はトニー・スコット監督作ということに気が取られてたのですが、改めて見てみると見事なまでにシェーン・ブラック脚本だったですね。

 具体的にいうと、「災難続きで人生に悲観し世間に対して心を閉ざしていた主人公(たち)が、無垢な少年少女の言葉に素直に耳を傾けることで、袋小路の状況に光明を見出し未来を切り開く」という話。自身で監督をするようになってからの作品に顕著だけど、だいたい全て同じ話ですよね(『ザ・プレデター』も!)。

 そういう観点からすると、ハードボイルドらしい気が利いたセリフも多いのですが、トニー・スコットの演出が平板なためいい感じになってないような。(どんなやりとりもカッコつきで「という設定の人物です」みたいに感じる。)むしろ自身での監督作のほうが上手だと思いました。とはいえ、総じて面白かったです。

☆☆☆1/2

※ところで本題ではないのですが、議員のボディーガードをハイウェイで引き留める時に、行き掛けの駄賃みたいにカジュアルに射殺してたけど、あれはよかったのかな?

王朝の陰謀 闇の四天王と黄金のドラゴン(ツイ・ハーク)

 本家三部作完結。プロダクションデザインは1作目の洗練には及ばないものの、銃みたいなボウガンや飛ばせる盾などギミックに工夫があるし、相変わらず殺陣の組み立てが無茶で楽しい。

 ところで医官のシャトーとのコンビも快調なだけに、ここからあの「人体発火怪奇事件」の悲劇につながっていくのかと考えると胸が痛みます…(ちゃんとエピローグで言及するのがまた…)まあシリーズ通して無茶な話ではあるのだけど、解決の糸口とかロジックがしっかりしてるのがいいんですよね。そしてちゃんと三部作として構成されているし。と、見てみると、同じ人が脚本担当だったからなんですね。納得。

 香港ニューウェーブとしてツイ・ハークが登場した時に喝采した皆さん(含む私)だったら間違いのないシリーズだったのではないでしょうか。とても面白かったです。

☆☆☆☆

※ところで主人公のマーク・チャオ、物腰が穏やかなのに何だか魅力的な感じ誰かに似てるな、と前作から思っていたのだけど長谷川博己でした。

9人の翻訳家 囚われたベストセラー(レジス・ロワンサル)

 (ネタバレ)いくらなんでも翻訳家を直接的に拘束、傷つけるということは翻訳が完了した時点で補償しなきゃいけなくなるのだからそもそも現実的ではないだろう、という前提の時点で乗れなくて、正直結末までどうでもよくなってしまいました。(チームのメンバーがまんまと9人の中に選ばれる、というのもそうとう難しいと思うのだけど…)

☆☆1/2

バイス(アダム・マッケイ)

 『ジョーカー』の時も思ったのだけど、こんな現状でいいのかしらという感覚はアメリカも変わらないんだなと思いました。(『ヘリテージ財団』や『トリクルダウン』が引き合いに出されるところとか。というかもともとそこを参照してたんですね。)

 太閤記的なところは物語そのものの推進力があるからもちろん面白かったのだけど、政治劇になっていく(若干だれる)ところでコメディ色が強くなり、かつ手数が多くなる(シェイクスピア風にしてみたり、ロボコップ風にニュースを挿入してみたり)のは飽きさせない工夫とはいえ微妙だったかな。でもそうじゃないとおぞましくて見ていられないからということかもしれませんね。

 ところでベールとアダムスのコンビは『ザ・ファイター』を踏まえているのかな。

☆☆☆1/2

アルキメデスの大戦(山崎貴)

 オープニングの海戦描写こそ目を引くものの、肝心の人間ドラマは平板。しかし平板な演出でも物語の組み立て方によっては何とかなる、ということを逆説的に示しているような気もする。山崎作品には珍しく今の時代に物申すメッセージがありましたね。

☆☆☆1/2

かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート(ウィルソン・イップ)

 無茶なアクションの組み立ては楽しかったものの、話が一直線すぎて工夫がないし、登場人物が平板すぎる。(ところどころ展開も釈然としない。)浪花節でも構わないのだけど、そうしたいのであれば押さえるべきツボを外してたんだなと思います。ちょっと残念でした。

☆☆☆