ジャンゴ 繋がれざる者(クエンティン・タランティーノ)

 <ネタバレありです>ようやく観ました。今回はまた堂々たる正攻法で撮ってましたね。『イングロリアス・バスターズ』にはまだあった「標的ここ→」みたいな照れ隠しは封印、ストーリーテリングも奇を衒わずど真ん中。実は『イングロリアス〜』の時危惧していたのは、絶対的悪者「ナチ」であるのをいいことに悪趣味な暴力の限りを尽くす、という作品になっていたら監督のことが嫌いになりそうでいやだな…ということだったのですが、敵対するナチスの軍人もちゃんと血肉の通った造形になっていたのでタランティーノを見直した、ということがあったのでした。さて重いテーマも扱っているらしい今回は?感想メモです。
・なんでもないような会話の積み重ねによって生まれるグルーヴ、というのが監督作の刻印みたいな感じでしたが、今回は大分控えめ。「ストレートな語り」を選択した故だと思うのですが、正直、些か寂しかった。
・一方、その「会話劇」によるサスペンスの醸成が武器だったこれまでの作品に比べて、ダイアローグのボリュームを控えめにしたことを補完するように、「いつ暴発するか分からない身内:ジャンゴ」という設定上のサスペンスがある訳ですが、さすがに盤石の演出で見せるものの、「会話の落ち着き先が見えない」という「演出スキル」で見せるタイプのものではないため、こちらもちょっと寂しかったですね。
・さてオスカーウィナーのヴァルツ、さすが貫禄の演技。正直、ランダ大佐の後は「悪役」が続いて(まるで一時期のゲイリー・オールドマンのように。ハリウッドはいつも「毛色の違ったところから出てきた悪役」を探しているようだ)、全然彼のポテンシャルを引き出すような類のオファーではなかったから、全く違った切り口の人物で再度の栄冠にまで導いたタランティーノは流石と言わざるを得ないですね。
・そのクリストフ・ヴァルツ演じるドクター・シュルツは(多分、歯科医師資格を持っていたドク・ホリデイを踏まえたキャラクターなんだと思いますが)、本来、どの程度本気で歯医者をしていたのか分からないような胡散臭い出自の人な訳です。そんな彼の方があの握手のシーンに至って「すまん、我慢できなかった」と暴発する。フラッシュバックまで伴って丹念に描写されるので、今まで奴隷に対する蛮行を座して見逃してきた後悔も相まって、ということなのは間違いないと思いますが、一瞬の油断が命取りになる裏街道を、海千山千の輩相手に渡ってきた先生にしてはナイーブすぎやしないか?という違和感を先ず感じて※1。今回唯一展開上の齟齬というか、滑らかじゃないなと感じた点でした。
・さてカウボーイには相当な割合の黒人がいたのが史実なので、馬に乗った黒人が珍しいということはないはずですが※2、それはさておいても見た後の個人的な印象としてあまり「西部劇」というイメージにならなかったのは、やはり監督の倫理観が全面に出ていたからかもしれません。つまり、奴隷頭スティーヴン※3に象徴されるように「虐げられている(と感じている)立場の者が、同じ虐げられている者に対して感じる(行使する)近親憎悪が一番性質が悪い」ということ。このテーマの鋭さは今の日本においても非常にアクチュアルだと思います。
・倫理観という点では、最後の復讐シーンにおいてカルヴィンの姉のララをも躊躇なく手にかけるので「あ、やっちゃうんですか…」と一瞬なったのですが、ここは「座して見過ごす」こともまた悪なんだというテーマの強調なんだと理解しました。
・とはいえ、テーマの重さがやはり一種の息苦しさにもなっていて。120分くらいで『デス・プルーフ』くらいの軽やかさでマカロニ・ウェスタンやってくれてたらな・・・と思ったのも偽らざる気持ちではありました。という訳で。
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※1 逆に「そんな彼が暴発してしまう」という展開だからこそ胸が熱くなる、という意見もそれはそれで納得なんですが…
※2 市井の人々のリアクションなどのように、テーマを明確にするための演出上の方策なんでしょうね。
※3 実はカルヴィンの死に対する動揺のあまりの激しさに、実は彼が父親だったのではないか?と思ったのですが(他の方の意見にもあったので)、そういう描写やセリフってあったかな?でもそれだとテーマがぼやけてしまうか…