今回のターゲットはヴィオーレ・ファルーシ、自らの美学を具現化した享楽的なエロスの殿堂「愛の宮殿」で知られた男。ガーセンは彼への接触の糸口として、ファルーシの執着する一人の女性の存在に気づくのだが、それは彼が魔王子へ至る過程を辿る道でもあった・・・
今回の魔王子は、少年時代に受けたルックスへの中傷と思いの届かなかった女性への執着がきっかけとなって、暴走を重ねたあげくそうなってしまった男。「愛の宮殿」を運営していながら、自らはもっぱら「どうすれば初恋の女性への想いが成就されるか」の実験を繰り返すことに人生を費やしているというパラノイア。やっぱりこのシリーズは、通常のスペースオペラの定型を脱臼するようなストーリーテリングが読ませどころみたいですね。加えてヴァンスの資質なんだと思うけれど、「愛の宮殿」という施設は退廃と欲望の極み、みたいな謳い文句の割に直截的な描写はほとんどないのがストイックな印象を強めます。そういう点では、似たような話を書かせてもアルフレッド・ベスタ―の方が「むちゃな雰囲気」の演出には長けているような。
それとこちらもシリーズ定番ですが「あいつに目を付けられたらお終いっていうのはあんたも分かってるんだろ?」などと筋金入りの悪人たちが口々に言うので、余程怖ろしい存在なのかとみせかけて、存外脇が甘い。魔王子はあと2人ですが、本当に隙のない大物との知恵比べみたいなのがそろそろ読みたいな。
☆☆☆