ニノチカ(エルンスト・ルビッチ)

 ツンデレ及びそれに萌える気持ち、というのは最近になって発見された概念「ではない」、というのがよく分かる映画でした。しかも驚くべきことに、深夜アニメ的な世界観(直截的にはエロゲー?)において定番※1である、タイムスリップしてきた未来人とか、異星人が送り込んだ調査用アンドロイドであるヒロインが、ちょっと変わった言葉遣いで「低俗な遊びに夢中になって、いい気なものだのう」「なにキス?、こ、こうすればいいのか・・・」みたいな、そういうシチュエーションももれなくフォローしております。
 食糧難を免れないと悟ったソビエトは、外貨獲得のため旧帝政ロシアの貴族から没収した宝石を売買する目的で、3人のエージェントをパリに派遣する。ところが彼らは現地でレオン伯爵と名乗る調子のいい男にまんまと懐柔されてしまう。上手く事を運んだレオンは、いつもの癖で道に迷った女性を口説きに掛かる。しかし彼女こそは、業を煮やした当局が送り込んだ特別全権使節ニノチカだったのだ・・・
 まあ、全編にわたって気が利いたセリフの応酬。慣れないドレスを着たニノチカが「ばかみたい?」と問うと「その服だけが歩いていたら、捕まえてこう言うよ。素敵なドレス、ニノチカに会ってくれ、君達はきっとお似合いだってね」(・・・あれ、引用する箇所を間違えたかしら・・・)それはさておき、ラブコメらしい粋なセリフ、シリアスな会話、どれもがダイアローグかくあるべしという素晴らしいものでした。なのですが、これを今日の作品にそのまま適用しようとするとちょっと現実離れしていて、下手をすると物語が停滞してしまう恐れがあります。そう考えると、この時代(39年製作)だからこそ味わえる贅沢なのかもしれませんね。(脚本はビリー・ワイルダーです。)
 ところでニノチカは、16歳から兵士をしていた叩き上げで、キスなら殺したポーランド兵にもしたことがあるわとうそぶく武闘派。そんなツンな彼女がデレな面を見せるというのがこの作品の最大の売り「「Garbo Laughs!(ガルボが笑う!)※2」な訳ですが、うーん、実は個人的には、目が悪い人みたいに眉間にシワを寄せた登場時のニノチカの方がチャーミングに思えたなあ・・・ともあれ、ラブコメというジャンルの金字塔だけあってさすがの完成度でした。
☆☆☆1/2(4つでも・・・しかし「生きるべきか死ぬべきか」との相対評価で)
※1さすがにオールドスクールすぎたかな・・・
※2今では有名なこのキャッチですが、実は脚本が仕上がる前に作られたものだとか。