シャンブロウ(C.L.ムーア)

 ムーア短編集と謳われていたけれど、実際は「コンプリート・ノースウェスト・スミス」でした。ノースウェスト・スミスとは宇宙にその名を轟かせる無法者で、作者が創造したスペース・オペラ西部劇の主人公。タイトルのシャンブロウは「世界初の萌えキャラ」としてSF者には有名(なんだそうです。確かに「いわゆる萌え」の定義を満たすキャラクターとしては最初のものかも)。ハヤカワSF文庫の松本零士の手による耽美的な表紙は確かにどこかで見覚えが・・・

 ところで西部劇の時代って結構微妙で、ものすごく昔のような気もするけれど、割と現代に近いんですよね。というのも解説にあったように、このSFが書かれたのはワイアット・アープの死後4年。そう考えると不思議な気がします。
 それはさておき、基本的に話はみな同じ構造で、魅惑的な美女絡みの危険な儲け話に首を突っ込んで→「人智を越えた存在」と生死を懸けた精神力の勝負をし→ギリギリのところで偶然に助けられたりしながら勝利する、という展開。時代もあって直接的な描写は避けられていますが、蠱惑的美女とのやりとりはむしろ妄想を刺激されます。(女性作家なんですけどね。)そう考えると今回の表紙も・・・
 一番面白かったのは『黒い渇望』。人類に先立つ超古代種族が底知れぬ大洞穴に美女を育成しているが、それは「美しさ」そのものを文字どおりの糧とするためだった・・・という話。グッときたポイントは果てしなくエスカレートしていく「美しさ」の過剰な描写。美女版死亡遊戯。

「ここにいる処女たちの美しさは非の打ち所がなく、痛みを覚えるほどだった。甘く明るい声は彼の神経をビロードのささくれで撫でまわすようだ。」

 から始まって、

「大殿堂の処女たちが女神なみだったとすれば、〜想像するよりもはるかに美しかった。彼女は神性を超えていた」

 もう打ち止めだろうと高を括っていると、

「触れがたい美女の白い肉体は眼前で星々がゆらめくようだった。彼は息を殺し、この耐えられない美しい光景から身を引いた。」

 実はまだ続くんですが、表現というもののバリエーションには限りがないのだなと本当に感心しました。どこまで行き着くのかはぜひ読んでいただきたいと思います。
☆☆☆1/2