魔王(伊坂幸太郎) 

 しがない会社員安藤は、ある日、自分が他人に自由にものを喋らせる特殊能力の持ち主であることに気づく。そんな折、マスコミでは外交問題で他国に断固たる態度で臨み、憲法第9条改正を唱える若き政治家犬養がその存在感を増していた。劇場型政治の波に乗り、群集心理に働きかける彼の手法にファシズムの不穏さを感じ取った安藤は、手に入れた力を利用して戦うことを決意するのだが・・・
デッドゾーン本歌取りの趣。ただ今回も登場人物のゲームみたいな類型化された「キャラっぽさ」と本筋との描写レベルの違和感が拭えなかった。どうもセリフまわしのせいだと思うけど、個人的な感触の問題なのかなぁ・・・。一方、ギミックに頼らなくてもストーリーテリングに長けている作家なのだということには感心しました。
 「義理の妹が語る後日談」である後編『呼吸』で相対化されるつくりにはなっていますが、物語の構造上どうしたって主人公の視線に誘導されるわけで。安藤君のスタンスに共感できたとしても、読んでいる間中、アジテーション的なつくりがエンターテインメントに乗せるネタとして果たして適当なのか、という思いに囚われ続けました。気持ちをかき乱す不穏な感じというのは作者の意図どおりなんだと思うけれど。(顧みるに『デッドゾーン』では大統領候補が倒されてしかるべき絶対悪だったから、本編のメロドラマが映えたのだな。)イデオロギーと宗教は「大人の話題」として相応しくないっていう言い方を思い出したり・・・
☆☆☆1/2