コラテラル(マイケル・マン)

 腕のいいタクシー運転手マックス。彼には個人営業のリムジンサービスという夢があった。しかし実現にはまだまだ遠い。そんなある夜、たまたま乗せた景気のいい客。なんと彼は殺し屋だった・・・。 

 「あんな目立つ壊れたタクシーで仕事するなんてプロじゃない」「マックスに固執する理由が分からない」みたいな批判が公開当時にあったと思う。その難点の原因は、そもそもこの作品が「殺人ネタ」のブラックコメディ(しかもオフビートなやつ)として書かれた脚本だからではないだろうか。ところがトム・クルーズ主演ということで、クールなサスペンス的なものとして演出されたせいで、そういった点に齟齬を来たしているということだと思う(映画秘宝あたりでそういう指摘があったっけ?)。だから本来は「XYZマーダーズ」とか「隣のヒットマン」あるいは「ベティ・サイズモア」みたいな仕上がりが理想だったのではないか。理屈はとおってるけど道理にあわない、説教強盗的なパーソナリティの殺し屋が登場するのもお約束である。

 トム・クルーズが新境地開拓→銀髪にヒゲは、なんだかコスプレ・チック。いまさら演技の幅を広げようとしなくても・・・。「何を演じても同じ人(スター)に見える」というのもひとつの役者の在り方なんだから、もうそれでいいじゃない、と思った。嫌味じゃなく。実際格好良かったから。

 監督はさすがに「マイアミ・バイス」の人だけあって、夜の街でバディ・ムービー的なものを撮ると上手い。もちろん撮影監督の功績は大きいはずだけど、夜の風景はそれだけで話がもつほどに美しい。

 ところで僕は真夜中から話が始まって夜明けで結末を迎える映画が大好きだ。夜が明ける過程の風景描写が丁寧で、かつ夜明けがちょっと肌寒いような印象の作品には名作が多いような気がする(独断)。「マラソン・マン」がまさにそうだし、知られざる名作「真夜中の処刑ゲーム」なんていうのもあったな。

 大傑作ではないけれど、普通に面白かったです。

☆☆☆