ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション(クリストファー・マッカリー)

 これまた傑作でした。
 世評高い4については、部分部分で凄い!と思っても、全体としては(いまとなっては)凡庸な印象であって、一方がっかりと言われている3については「大作戦」感が良かったのでは…という感想を持つ者です。(結果として1が一番好き。)
 正直、このシリーズも「前作以上の派手な見せ場を」という続編ものの悪癖から自由であるとはいえず、いうなればトム・クルーズがどれだけ無理をしたかを競うような「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」みたいな不毛な行く先を予感させていた訳です。ところが5作目に起用されたのは『アウトロー』のマッカリー。泥臭い70年代アクションを再現してみせた彼なら、かつての『国際諜報局』みたいな渋いエスピオナージュに舵を切ってくれるのではないかと期待していたのですが…
 さて、結果としては嬉しい予想外で。このシリーズらしい大作アクションの構えは崩さないまま、肝心の部分は知力と胆力の戦いという1作目のような雰囲気。しかもあそこまで殺伐としてなくて※1、着地は友情と信義という心地よい結末。実に上手かったと思います。
 個人的にはベストシーンはオペラが舞台の一連の流れ。信用しきれない射手と完全に悪者風の射手の挟撃にあって、ターゲットをスナイパーから守るにはどちらを撃つべきか?ということの解決策が実に頓智が効いていて巧みでした。いかに彼が場数を踏んでいるか、という描写でもあって、かつサスペンス演出としても一級のシーンだったと思います。
 加えて、ディテールの繊細さ。そういうところに抜かりがないと、つい高評価したくなる。例えばオペラ座からの懸垂降下で、ヒーロー映画だからしょうがないけど、それじゃ手のひらがもたないだろ…と思ったらちゃんとカーテンの切れ端で保護してたり、バイチェイスでのシフトチェンジ描写だったり。※2
 それと敵役のボスとの決着のつけ方ですね。これまでだと、いかにもクライマックスといった大アクションになったと思うけど、今回は地味な、けれども熱い知力戦。勝負を分けたのはイーサン・ハントが「現場の勘」と常にともにあること。
 いみじくもCIA長官※3が劇中語るように、IMFは「最後を運に任せ過ぎ」「エースに頼り過ぎ」な組織としてはちょっと問題があるところ。しかし、いざとなったら現場で血を流すことを厭わない・覚悟ができているリーダーがいるからこそ、「不可能なミッション」を解決してこられた訳で。逆に言えばシンジケートにはそれが足りなかった・・・ってこれってスーパー・サラリーマン幻想ですよね(俺についてこい、いやついてこなくてもいい。責任は俺が取るぜ!)。ああこのシリーズはそういうファンタジーでもあったんだなと今頃得心した次第。でもすごく面白かったなあ。
 追記:ところでオペラの演目が『トゥーランドット』で、劇中、シリーズのテーマ曲にもそのフレーズが折々挿入されるのですが、これはイルサの心情の変化をテーマ的に補強していたんですね。これも巧い。
☆☆☆☆1/2
※1 1作目だけ異色というか、まああの感じが良かったのですが。
※2 アーケードゲーム世代にはたまらないキレキレのハングオン
※3 結局IMFってどこの管理下にあるのかなあ…作品ごとに設定が違う気が…