EXIT イグジット(イ・サングン)

 小・中の頃って(なんなら今だって)もしテロリストが襲ってくる等の不測の事態でビルから出られなくなった時に、屋上伝いに脱出するには…と夢想するものだけど、まさにそれを具現化した作品でしたね。場面毎に一工夫しようという姿勢も嬉しかったです。

☆☆☆1/2

スレッズ(ミック・ジャクソン)

 有名なトラウマ映画と最近知りました。実際見てみたら感受性豊かな幼少期にショックを受ける(主にビジュアル面で)類の作品じゃなくて、年をとればとるほどダメージが大きい話だったですね。心に余裕がある時じゃないときつい内容でしたよ…

 ところで監督は後に『ボディガード』を撮る人なんですが、内容が隔絶してて俄かには信じがたい(まあ何だったら納得なのか、という話ですが…)。「up」の監督が007を撮るような、そういうものなのかな。

☆☆☆

バットマン・リターンズ(ティム・バートン)

 ミシェル・ファイファーヘレナ・ボナム・カーターみたいに撮られていたので、やっぱりこういう感じが好みだったんだな、と思いました。

 バートンワールドの実写での再現性(ペン画みたい)がすごくて感心するけど、やっぱり箱庭みたいで窮屈なんだよね。

☆☆☆

アイネクライネナハトムジーク(今泉力哉)

 残念ながら今作は上手だな、と思える瞬間がなかったな。芝居という意味での演出が巧みな監督とは思わないのだけど、役者同士の掛け合いが有機的な何かを生み出す(格好つけていうと「そこで何かが立ち上がる瞬間がある」ということだと思うけれど)場を捉える技術に長けていると思っていて、しかし今作ではそこに辿り着けてなかった気がしました。原作の流れに足を取られてしまったのかな…単純に僕が伊坂作品が好きじゃないだけかもしれない。多部さんは出番は短いのに一番印象深かったですね。

☆☆☆

技術者たち(キム・ホンソン)

 コン・ゲームものなのでどうしても構えて見ちゃうけど、ツルツルあっさりいただけました、という感じ。でもそこが良さなので。(個人的には似たようなタイトルの『監視者たち』の犯罪者の業みたいなコクがあった方が好きなんだけど。あれはリメイク元も良かったからな…)悪役の右腕役が格好よかったですね。

☆☆☆1/2

用心棒(デイヴィッド・ゴードン)

 ちょっと物語にとって都合よすぎる展開が多いのと、用心棒稼業がほとんど描かれないので看板に偽りありではないか。というか杉江松恋氏の解説の方が面白かった。

 時代の波にさらされて細部が気にかかり、過去のようにはエンターテインメントが楽しめなくなる、ということは良くも悪くもあるけれど、一方で過去から一貫して面白い作品もある訳で…率直に言って主人公は読者にとって「都合がいい男」すぎる。加えて、何というか登場人物が皆、多様性への配慮的なものへのアリバイづくりで汲々としている印象で、そういうのは後からついてくるものじゃないか?という気がして。(ドストエフスキーを読んでインテリ気取りというのも割と恥ずかしい。お金持ちの時計がロレックスというのもそう。むしろパテックフィリップとかヴァシュロンにすべき。)

 面白くなかったわけではないので続編に期待します。

☆☆☆

デッド・ドント・ダイ(ジム・ジャームッシュ)

 僕は面白かったけど、随分無茶をしているな、とは思いました。

 感想を書けばその一言に尽きるのですが、自分の中で発見があったのでもうちょっと書きます。ある映画の「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、という確固たる感覚が僕の中にあって、実は同監督の『パターソン』がそうだったのだけど、黒沢清の諸作※や『寝ても覚めても』にも同じ面白さを感じるのです。もしかしたら今泉監督作品もそうかもしれない。

 ひょっとしたら起承転結みたいな物語の結構とは別種の面白さなのでは?と常々思っていたところ、今作を見て確信を持ちました。あの結末に怒ってしまう人多数だったのはよく理解できるけど、どこかで物語を終わらせないといけないからああしただけで、正直、ゾンビを一網打尽に退治する方法が発見されました!でも何でも監督はよかったんじゃないかな。技術的にはどこまでも続けられるし、見ていられると思います。だから僕が苦手なゴダールも、好きな人にとっては「面白そうな雰囲気」の場面を見ているだけで楽しい、のではないか?ということなんですね。

・署長のクリフは死者との生前の関係性で葬ることを躊躇ってしまうのだけど、ロニーはどんな死者に対してもためらいがない(さっきあんなに楽しそうに話してたのに!)ドライさがあって逆に怖い、そして折に触れその対照性が描写されるのに物語としてはあまり寄与しないのが不思議な感じでした。

・死者がwifi~とかBluetooth~とか文明の利器に固執しているのは、生者がスマートフォンに浸りきっている姿の風刺画として、ということのようですが、星新一の作品にも生まれて死ぬまでイヤフォンからの指示で生きている人間という話がありましたね。

・先日見た『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、人間側が立て直して組織的に退治する体制を整えるのが画期的だったかも。でもそれ以前の巨大生物や宇宙怪獣ものは退治方法を発見して科学の力を称揚する、みたいなのが普通だったからその名残だったのかな。

 とはいえ、ホラーコメディと見せかけて…という言外のメッセージが核心だと思います。ああ、だからこそあの結末なのか。

☆☆☆1/2

※ とはいえ、黒沢監督はまだ「物語の枠組み」にこだわりがあるような気がします。