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復讐の序章―魔王子シリーズ1(ジャック・ヴァンス)

 カース・ガーセンは幼いころに一族郎党を皆殺しにされた。敵は憎き5人の伝説的犯罪者「魔王子」※1。祖父の言葉に従い彼は厳しい鍛錬により知識と殺人術を身につけ、人生の全てを賭けて彼らを葬り去ると誓った!
 ヴァンスと言えば『竜を駆る種族』とこの魔王子シリーズの人、というイメージだったのだけど、ようやく割と最近になって実際に作品を読んでみると、ダン・シモンズジョージ・R・R・マーティンなどが強い影響を受けているというのがなるほど納得な作風でした。作り込まれた一種箱庭的な異世界の風物、錯綜する人物関係など。
 という訳で、初めて読むこのシリーズですが、何ていうんですかね、あらすじから想像されるようなシリアス一辺倒ではなくて、結構オフビートな味わいがあって(そもそも主人公が自己研鑽に明け暮れたあまり童貞コンプレックスというシュールな設定)。今回ターゲットとなる魔王子は「災厄の」マラゲートというオドロオドロしい二つ名を持っているにも関わらずその真価を発揮する間もないうちに・・・というか全編そんな感じで。ケレン溢れる前口上でドキドキしてたら肩すかし、という展開が続きます。
 ところがこれが作品上マイナスには決してなっていない。なーんだ、と油断していたら「瞼を切り取られ顔が変形するほどの凄惨な拷問を受けた復讐に、拷問者を捉えて孤絶した惑星で生かさず殺さずの飼い殺し」※2のようなグロテスクなエピソードが挿入されたり。あるいは民明書房が刊行したような雑駁な書物からの一見ランダムな記事の引用によって、主人公たちが生きる世界を重層的に描き出してみせたり。それらが生み出す作者独特のリズムが不思議と癖になってくる。
 先に挙げたSF作家たちとの最大の相違点は、言ってみたらジャンルが年経てソフィスティケートを極めた彼らの語りの技術とは対照的な、ヴァンス一流のそういった「引っかかる」読み口ではないでしょうか。それに加えて今回改めて気づいたのは、極限状況における人間のみっともなさ(年齢立場地球人を選ばず)を描かせると天下一品ということですね。作品の器から要請される以上の不思議な迫真性があります。2作目を読むのが楽しみになってきた!
☆☆☆☆
※1 復讐すべき相手をノートに書きだすシーンがあるのですが、やっぱり『キル・ビル』の元ネタなのかな(他にもありそうだけど。)あと輻輳する登場人物同士の異様な関係という点では『五毒拳』も連想したり…
※2 マラゲートに使役される便利屋の挿話。
※ スペースオペラの結構で語られる物語と思いきや、どちらかというと一つの街を右往左往するハードボイルドの文法に則って描かれていたような気がします。