独自に調査を進める保安官クリフ、ドラマにツイストをもたらす要素なのかと見ていたらあっけなく退場。おとり要員だったはずのヒロインが、実は職業軍人の父親仕込みのガンマンだったと判明し、おおこれは『ジェヴォーダンの獣』みたいな非戦闘員とみせかけて最大戦力というやつか?あるいはハン・ソロ的なあれか!と期待してたらそのまま放置。というように、通常の娯楽作品のセオリーを回避していく脚本。しかし現実はそんなものかもしれない・・・と思わされて、これこそ正にポール・シュレーダー節なのだなと得心。つまり「片腕のベトナム帰還兵が家族の敵を討ちに殴り込み」という大きな映画のウソを観客に飲み込ませるための、作品内リアリティの醸成が実に巧みなんですね。加えて、決して盛り上げようとしない不穏な劇伴が好印象(最近の映画の饒舌すぎるサントラは食傷ぎみなので)。考えたら、音楽次第ではものすごくカタルシスのあるバイオレンスアクションにも成り得た作品だと思います。
それとユニークだったのが主人公像。ベトナムの虜囚経験から彼岸の人となってしまった彼※1は、終始「得体のしれない存在」として描かれ、観客はストレートには主人公の心に寄り添えず、むしろ彼の言行に翻弄される周囲の人々にシンパシーを感じざるを得ない。しかし、映画自体は主人公視点の復讐譚で推進される、というねじれの構造が面白かったです。
☆☆☆1/2
※1 書いていて思い出したのが、アンドレーエフの『ラザロ』。決定的な経験は誰にも取り消すことはできない、というテーマ的にも通じるものを感じます。
※ 若き日のトミー・リー・ジョーンズが、やはり戦いの中に死に場所を求めている帰還兵役で出演しているのですが、本当にこの頃はジョシュ・ハートネットに似てる。後のストラニクスである。