ケイコ 目を澄ませて(三宅唱)

 難聴のボクサーを体現する岸井ゆきのの凄さ。ボクシングのリズムを自らのものにしている所もすごいけど、難聴が前提だから、話しかけられたり自然音に対して反射的に身体が反応してしまいそうなところを「聞き流す」ところが輪をかけてすごいと思いました。もちろん映画における「自然音」は後から足しているのだから、演者たちは映画そのままに聞こえているわけではないけれど、それにしてもね。

 しかしながら、そのような岸井ゆきのの演技の凄さがそのまま作品の素晴らしさとなる訳ではないのが難しいところ。少なくとも僕にとっては作品の語りたい物語があまりに淡白すぎました。あえて描写しないことで観客の想像に委ねて作品に奥行きが出るということはあるけれど、主人公が「一度、お休みしたいです」と思った理由がいまひとつ分からない。なんだかそのままエンディングになってしまったという印象でした。画面の構成力(というか端的に画力といってもいいけど)には感心するところも多かったのですが。

☆☆☆