ごく大雑把にいって、およそ娯楽作というものは「(物理的・精神的な)障害の設定→主人公の成長→打破」という形式を取るものだと思うのですが、それは青春もの、恋愛もの、もちろんアクションものも、というようにジャンルを問いません。この物語もその例にもれず、というよりこのフォーマットから外れるところのないストレートな作り。そこに加えてジャッキーメソッドを取り入れたかのような過剰なトレーニング。師弟愛。盛り上がらないわけがない。※
また、繊細なディテールも印象深い。静まり返った聴衆の中、馬の嘶きだけが響く。不案内な庶民の街で、エレベーターの使い方が分からない。そういった細やかな部分まで行き届いた演出が、「いつか自分も経験したような」という観客の共感を誘うフックになっていたと思います。
ですがその一方で、率直な感想としては一抹の物足りなさを感じたのも事実で。それはどこまでも端正な映画のトーン故?それこそがアカデミー会員好みだったとも言えるのかもしれませんが、こんなにイギリス、イギリスした作品がなぜアカデミーウィナーだったのか、と推察するに(前にも似たようなことを書きましたが)やっぱりこの閉塞状況にあって「俺が本気を出したらこんなもんじゃないんだぜ」というかつての栄光の日々を顧みたい今の気分にフィットしたからではないだろうか。などと、観ながら考えていました。
☆☆☆1/2
※しかし吃音が完全に克服されるわけではない、というところがこの映画の誠実さを担保しているような。