イン・ザ・プール(三木聡)

 原作小説はウェルメイドな落としどころを志向する、極めてドメスティックな人情話だった。(小林信彦に近い感触。)だから奇矯な人物として造型されている伊良部医師ではあるが、その枠組みを逸脱することは決してない。
 というところで、どちらかというとシュールな作風である三木監督との組み合わせがどうなることかと心配していたのだが、手堅くまとめていたという印象。
 ところで、オダギリジョー演じる患者が、松尾スズキ演じる伊良部の離婚騒動を目の当たりにして、それまで秘密にしていた「自分にも離婚歴がある」ということを告白すると、「知っていましたよ」と伊良部が応じて・・・次の瞬間「嘘だよーん」というシーンがある。どちらかというと、「知っていましたよ」と答えるところで終わる※ような「ええ話」として書かれている原作に対して、三木作品だなあというのが端的に表れている場面だと思いました。まあコメディとしては定番のギャグではあるけれど。
 映像作品での松尾スズキの演技は、やっぱり方法論が違うせいなのか、舞台っぽいというか微妙に納まりが悪いという印象をいつも受ける。それでもあえてキャスティングするのは、逆にその異物感が欲しいということなのかしらん。
☆☆☆1/2
※原作の伊良部医師も「知っていましたよ」と答えるようなキャラではない。なんというか、小説の世界観が、という趣旨で書いております。