分解された男(アルフレッド・ベスター)

 最近「新訳版」がブームだけど、そのせいで旧訳が消滅してしまうのはちょっと寂しいと思う。というのは、所謂「翻訳文体」の固さが好きだから。それと、時代がかった言い回しを全部現代風の口語に移し替えるのが全くの正解とは思えないので。
 ということを考えたというのも、個人的な好みとして「上流階級に属しているけれど、ちょっとはすっぱな女の子」という造型(としゃべり方)がツボなので。この小説に登場するダフィ・ワイガ&(ンド)というキャラクターがまさにそれで、三島由紀夫中間小説として書いた作品に登場するような女の子なんですね。(まあ翻訳者の訳文に印象としてかなり引っぱられたところはあると思うけれど。)そういう意味も含めて、もしも淘汰されてしまったらもったいないな、と思うわけです。
 ところで、エスパーに心を読まれないための対抗策として「コマーシャルソング風の強烈な刷り込み効果のある歌をエンドレスに頭で再生する」というのが出てくる。「学生時代の模試や受験本番みたいにものすごく集中しないといけない時に限って、なぜか単純な歌のサビがぐるぐる再生される効果」を思い出して、思わず笑ってしまった。(ちなみに友人とこの話をしたら、「俺の場合はテストの度にベリンダ・カーライルのラー・ララララ・ルンナという『ラ・ルナ』のサビが必ず出てきて発狂しそうになってた」と当時を懐かしく思い出しておりました。)
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※今回の迂闊:スタローンの『デモリッションマン』はこの作品の原題『The Demolished Man』のもじりだったんですね。