スカイフォール(サム・メンデス)

 先日『ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観たので久しぶりに見返しました。確かに撮影といい物語の構えといい、007というより映画として名作の風格があるのだけど、映画館で初めて観たときからどうしても好きになれないのは、助けようと思えば助けられるのに敢えてスルーする、という振る舞いが好きになれないから。

 1つ目は、シルヴァの組織に上海で暗殺される人(モディリアーニの絵を見に来た人)、2つ目は、セヴリンの「粛清」。前者は狙撃の瞬間が敵は一番無防備なはずなのにあえて撃たせるままにしているし、後者はやろうと思えば敵を全滅させることができた※(しかもバックアップチームも近くにいると分かっていた)。ボンドガールってまあ殺されるもんでしょ、というお約束の観点もあるのかもしれないけれど、助けようとしたけど叶わなかった(不可抗力で既に死んでいた)というのと、見殺しにするのは印象として天と地の開きがある。シリーズを全部見ている訳じゃないからそういうものなのかもしれないけど、ヒーロー的立場なら最低限守るべきラインがあるんじゃないかな。

☆☆☆1/2

※自らの欲望のために悪の道を選んだ人ではなくて、不幸な生い立ちから脱出するための一縷の希望としてボンドにすがったのに、というところが余計に可哀そうだった。何でわざわざそういう設定にしたのかなと思いました。

ロシアより愛をこめて(テレンス・ヤング)

 名作の誉れ高いけど、良くも悪くも「いい気なもんですな…」感があってぼちぼちだったかな。ところでソ連領事館を爆破する作戦があるけど、BGMの面白大作戦感とは裏腹に爆発に巻き込まれた女性が路上に放置されるカットがあって、その即物性と陰惨さにびっくりしました。あれってよかったの?

☆☆☆

サイコ2(リチャード・フランクリン)

 想像してたより丁寧だし面白かった(偏愛対象になるのも分かる)けど、プロット上の辻褄合わせの解決法がちょっとなあ…ツイストとして派手さはなくていいから、むしろボタンの掛け違いで哀しい結果に、ということにしてほしかった。

 ところで、当時小学生だった僕ですら「なんで今更作るんだろう?」って思ったのだけど(映画館にポスターが貼られているのを見たのは南極物語かスーパーマン3を観に行った時だったと思う)、ちょうどスラッシャーがトレンドになりつつある頃だったから、ノーマンのキャラでやれるんじゃないか?という発想だったのかな。

☆☆☆1/2

ノー・タイム・トゥ・ダイ(キャリー・ジョージ・フクナガ)

 ネタバレです。:『スペクター』で終わりでも美しかったと思うのだけど、もし続編があるなら、と想像していた感じの作品になっていてよかったと思いました。ダニエル・クレイグになってからの007は全部映画館で観てきたから感慨深かった。結末では泣いてしまったけど、その一方で淡白な印象もあって。思うに悪役のモチベーションが理解しにくかったからかな。

 監督の『TRUE DETECTIVE』が好きだったから独自性に期待してたけど、基本的に「映え」の映画だったですね。その点では予告にもあった細菌研究所強襲シーンが最高だったけれど、躍動感はなかったんだよな…結局それはクライマックスに至っても払拭されなかったのが残念でした。

 物語の要請からか、007としては変則なつくりだったような。パロマちゃん無双が一番の盛り上がりだったかな※。レア・セドゥがおばさんになってたのが若干ショックだったけど話的にはよかったかも。というか、冒頭の雪景色のシーンに始まって、イタリアに渡るから、映画を見てる時もこれってジョージ・クルーニーの『ラスト・ターゲット』では?って思ったのだった。そしてやっぱりそういう話でしたよね。

 ところで、「映え」の映画と書いたけど、秘密基地のシーンは完全にグルスキーでしたね。秘密基地のトップライトが『ドクターノオ』オマージュだったけど、重ねて戦艦「ドラゴン」って念押ししてくるのが可愛らしかった。

☆☆☆1/2

※『ジェームズ・ボンドとして』をアマゾンで見たのですが、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観るんだったら必修だなと思いました。パロマが私はここまでよ、って送り出すシーン、観てた時も何故かしら特別な感じがしてたんだけど、ダニエル・クレイグのオールアップがあのシーンだったんですね。

ゾンビワールドへようこそ(クリストファー・B・ランドン)

 気楽に見られるし、出演者の一流感がよかったです。(低予算で頑張ってる感じの作品もいいのだけど、役者陣がなあ…ってなることも多いから。)手堅いなって思ったら『ハッピー・デス・デイ』の人だったんですね。

☆☆☆1/2

※原題はScouts Guide to the Zombie Apocalypseだから『銀河ヒッチハイク・ガイド』のもじりですね。

白鯨との闘い(ロン・ハワード)

 よくこんなアンチクライマックスな物語に大予算をかけたなと思いました。小説『白鯨』のバックグラウンドという体裁だけど、その枠物語もフィクションでしたね。原題はIn the Heart of the Seaであるように、何かに憑かれた男が人の力の及ばぬ自然領域に足を踏み入れて、やがて我を失ってしまうという大海原の『闇の奥』ということなんだと思います。

 ところで、実話ベースだから仕方ないとはいえ、結末では男気ロマンを謳っていたけれど、そもそも考えてみたら「判断ミスでとんでもないことに…」という話だから共感はしにくかったかな(だからこそ最低限正直に、ということではあるんだけど)。意地を通さずにお金をもらった方がみんな幸せになったと思うのだけど。

☆☆☆1/2

007 ドクター・ノオ(テレンス・ヤング)

 ショーン・コネリーの007を初めて見たのですが、そうだったのかと気づいたことがいくつかあって。

宍戸錠が出てくる日活アクションや市川雷蔵の『ある殺し屋』等で、敵の襲来を予期して予防措置(アタッシェケースベビーパウダーを付けておく等)を取る際の所作が、一見テキパキして格好いい風を装っているけど、それは必要ないのでは?という要素があったりして。映画会社や役者は違えどもこの時代共通の雰囲気があったので、あれって何かしら?と思ったらジェームズ・ボンドだったんですね。

クリストファー・ノーランの007好きは広く知られたところですが、アクションそのものを撮るのがノッタリしてて上手でないのと、ロケーションがのっぺりした撮られ方をしてて緊張感がないな、と思ったら、今作の最終決戦の場所であるクラブキー島の(廃工場みたいな)印象が正にそれだったんですよね。『TENET テネット』の最後のシーンもそういうフラットかつ「この場所が作られた目的はなんだったの?」というプロダクションデザインだったけど、この感じの再現を狙っていたのかな、と思いました。

 さて本作ですが、ほどほど低予算で製作されていながら、なるほど今に至るまで続編が作られ続ける魅力があるよなと思いました。現在は文字通りの超大作が年に何作も公開されているけど、僕が中学校になるくらいまでは夏休み(冬休み)のお楽しみのアクション超大作っていうのは、事実上007のことだったからなあ…

☆☆☆1/2