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ウォッチメン(アラン・ムーア、デイブ・ギボンズ)

WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
 こういうことを書くと原作原理主義者には怒られそうだけど、例えばナウシカの漫画版と映画版の違いくらい大幅に変更があるのかと予想していたので、ちょっと肩透かしでした。映画化の話が具体化する前から伝説的なコミックスということで名前だけは知っていて、自分の中で存在が大きくなりすぎていたのかもしれません。また、発表当時は「ヒーローもの」をメタな結構で語るスタイルが斬新だったと思うのですが、本来はフォロワーであるはずの類似作品にさらされて、新鮮な目で臨めなかったという読書環境もあるような。時間を超越して偏在するDr.マンハッタンの主観視点を再現したチャプター4は、コミックスの表現としてかなり挑戦的な試みですが、ヴォネガットの『スローターハウス5』的といえば言えるしなあ・・・
 と、期待値が高かったあまり厳しい書き方になりましたが、背景画やコミックス内コミックス、挿入されるテキストページといった要素の相互連関が織り成すタペストリーの精妙さは噂に違わぬ素晴らしさ。これが書き下ろし作品であっても相当な難業だったと思うけれど(仏のバンドデシネはそういうやり方らしいですが※)、連載しながら!ですからね。読者のリテラシー水準を高いところに設定して、妥協しなかったのも考えてみるとすごい。
 さらに、それを踏まえて映画のことを振り返ると、何を枝葉として剪定するのかという選択の正しさと、結果出来上がった作品のもつ印象が原作と何ら遜色ないということは奇跡に近い。何度も企画が頓挫し(有名なギリアム版とか)、全然違う結末に書き換えられたバージョンの脚本もあったことを考えるとなおさらです。コミックスに忠実な映画化をしたかったら、本当に全部ザック・スナイダーに持っていったらいいんじゃないかしらん。
 それにしても、「誰が見張りを見張るのか?」というキャッチは(作中に出てくる言葉でもありますが)、小さいところでは個人間、大きいレベルでは国家間の疑心暗鬼が、陰鬱な閉塞状況を生み出している、という作品世界の空気を巧みに掬い上げていて、実に的を射たものですね(サニーサイドとしての『Mr.インクレディブル』を対置するとまた興味深い)。ある種のヒーローものの源流としても、確かに一読の価値のある作品でした。
☆☆☆☆
ユリイカメビウス特集参照。全部そうなのかは不明。