倫敦塔・幻影の盾 他5篇(夏目漱石)

 正月は風邪ひいて文字通りの寝正月。仕方なく読書などを。
 久しぶりに夏目漱石を読む。収録作では『趣味の遺伝』が読みやすいこともあり一番のお気に入りです。
 日露戦争を背景にした話ですが、凄惨な戦争描写は「『プライベート・ライアン』以降の戦争映画(最近定番の言い回し)」並の臨場感があるし、映像的な喚起力がある。その一方で、シビアな話でも(戦闘描写すら!)語り口にユーモアがある、というのは『我輩は猫である』や『三四郎』にも通じるところ。(夏目漱石の素晴らしさというのは、テーマ云々よりもそういう絶妙なバランスを保った筆致にあると思うんだけど、技術的な観点からの批評や論文というのをほとんど目にしたことがない。なんで?)
 この作品でいう「趣味」というのはスノボとか釣りみたいな「ホビー」の意味ではなく、「あいつの女の趣味悪いなあ・・・」とかいう時の「趣味」。ストーリーを端的に言うと、「友人とその父親の女性の好みが一緒であるのは遺伝であるという証拠を見つけて、してやったりという気分になった」という話。以前読んだときにも思ったけど、明治の昔からそういう意味で「趣味」という言葉が使われていたというのが、なんか不思議な感じだった。
 ☆☆☆