親切なクムジャさん(パク・チャヌク)

 人間が本能的なところで抱えてる「邪悪さ」とか「残酷さ」をこれでもか、と描く映画って、作られる必然性みたいなものが全然分からない。(監督のモチベーションがどこにあるのか理解できないと言い換えてもいいけれど。なぜに3部作も必要なのか、とか。)必然性がないと作ってはいけないのかっていうとそうではないんだけど、一観客としては何かしら「テーマ」みたいなものがあることで安心したいという気持ちがある。見る上での理論武装のような。そうでないとあまりにも過剰な暴力とか悪意に見ていて胃がもたれるというか。ストレートな娯楽作品であることを回避しているような風も見受けられるし・・・とか言って、本当は復讐のシーンで「もっとやれ!もっと痛めつけてやれ!」と思わず煽られている自分自身が気持ち悪かったんだけど。 
 というようなところを含めて、黒沢清の諸作との類縁性を想起せずにいられない。(監督は相当なシネフィルらしいので、参考にしているのは間違いないと思う。)ただ黒沢作品の場合は、例えば当初の「復讐」という動機は同じでも、話が展開するうちにどんどんズレてシュールな世界に突入していきがちで、振り上げた拳の持って行き場に困るような宙ぶらりんな結末となることが多い。その点、同じシュールな要素を取り込んではいても、この作品は(ある種のダークファンタジー的な)ビジュアル部分にとどまっていて、物語全体としてはきっちり纏め上げようという対照的な意思が感じられる。
 ところで特にこの映画を見て思ったのは、音楽にせよ画面にせよ、国の映画界に勢いがある時の「リッチさ」があるということ。マニアックな作品なのに、なんか余裕が感じられる。スターの順列組み合わせみたいな恋愛モノが作られている一方で、ちゃんとこういう作品も製作されているというのが(韓流ブームの沈静化が言われているにせよ)成熟の証なんだろうなあ。
☆☆☆1/2