サトリ(ドン・ウィンズロウ)

 トレヴェニアン『シブミ』のプリクウェル的な、という位置づけなんだけれど、やはりあのトレヴェニアン節というか、屈折、屈託、迂遠な韜晦趣味というのは全くなくて、どちらかというとむしろラドラムのような出たとこ勝負の勢い任せな話になっていた。しかしまあ、なまじ真似してしくじるより、同じ登場人物を自らの得意なフィールドに引き寄せて語る今回のようなスタイルの方がファンとしてもかえって受け入れやすいかもしれないですね。(「『ルパン三世』の声優は、はっきりイメージが違う人にした方がいいのではないか問題」のような意味で。)
 そういえばウィンズロウの初期作品は(ちょっとネタバレだけど)ことごとく「クライマックスのどんでん返しは主人公のごく身近な人が裏切り者と発覚」というパターンでできていたけれども、そういう意味でも作者の近作の骨太なクライムノヴェル的作風よりはニール・ケアリーものに近かったような気がします。どちらも主人公が成長過程の青二才のにおいがする点でも。
☆☆☆1/2
※1 ところでディカプリオ主演で映画化が動いているようで。もっと線の細い一見華奢な感じの役者さんの方がいいのになあ。それなのに凄腕暗殺者、というのが魅力な訳で。(ただそれ以前に映画の実現可能性も微妙だけど。)
※2 しかし『シブミ』も一見リベラルな風でいて、意外となんというかバイアスのかかった視点による物語であって、すっきりしなかった印象でした。いろいろ感想を読んでいてちょっと驚いたのだけど、そういう要素をスルーして絶賛というのはどういうものだろうか…そこも含めて面白いというのなら分かるけど。その点今回の『サトリ』はエキゾ趣味はあっても、ストレートなエンターテインメントとして配慮されていて今様だなと思いました。