読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

マネーボール(ベネット・ミラー)

 結論から言うと期待通りであったし、また弱点も想像通りだったという印象。
・監督は『カポーティ』の人であるわけですが、あの作品での難点が今回もやや散見されました。端的にいって盛り込む要素を欲張り過ぎのきらいがあって、剪定すべき枝葉を見極めきれていない感がある。その一方で物語を構成する骨格の要素を要所で観客にエピソードとして提示しなければならないのに、そこが絞り込めていないか欠落していたような気がしました。
 ちょっと迂回しますが、ブラッド・バードも何かのインタビューで語っていたように「名作には必ずダレ場がある」※1。ダレ場とは一見単純に退屈な場面と思われがちですが、アクションやサスペンスのようなわかりやすい「ごちそう」シーンでこそないものの、主筋外であっても物語自体は着実に進行しているような、逆説的にその作品の豊かさを担保している場面です。
 翻ってこの映画では、人物のバックグラウンドを掘り下げようという意図なのか、主人公と別れた妻とその現在の夫との「娘の教育方針を巡る気まずいやりとり」のような類型的な描写に尺を取り過ぎていたり、その反面、「奪い取られた選手の穴をほどほどの3人で埋めるという「革新的な理論」が機能する瞬間」というカタルシス溢れるであろうシーンをみすみすスルーしたり、とアンバランスなエピソード配分になっています。
・一方、期待以上だったのは役者陣。必ずしも物わかりが悪い訳ではないのに、矜持として自分の領分を侵されたくない監督の気分を相変わらず絶妙に演じていたフィリップ・シーモア・ホフマン が良かったのはいつもどおりとしても(今回やりすぎじゃなかったのもよかったですね)、怪我を抱えた身体で家族や自分の将来に不安をいだく元捕手を演じるクリス・プラットのナイーブさも収穫だったし、なによりジャド・アパトー組作品ではピンとこなかったジョナ・ヒルがこんなにいい役者だったとは!というのが一番の発見でした。ピーターの職業人としてのイノセンスに賭けてみたい、と思わせないとこの作品はそもそも成立しない訳で、そういう要の役を見事体現していたのはオスカーノミネートも納得の好演と言わざるを得ない。
 そして改めて思ったのは、スターというのは「場を持たせる力」をそう呼ぶのだな、ということ。巧い役者というのはそれはそれでもちろん素晴らしいスキルなんだけど、上手い下手を超越して一挙手一投足をずっと見ていたいと思わせる魅力がないとスターとは言われない。ブラッド・ピットのあの独特の所作※2については、その点でこの映画を「アクション映画」と呼んでもいいほどでした。
・最後に、というか実はこの項目こそ僕にとっては核心の部分なんだけど、あのギターショップでの親娘リサイタル。「悩み多きビリーの人生にとって、娘との時間だけが無条件に心安らげる時」っていう定番の場面だなと正直侮っていたら、あの天上の歌声!しかし娘はどこまでも素朴な顔・・・不意を突かれたこともあるけれどグッときました。結末のリフレインを考えると、作り手もここが決めどころというのはよく分かっていたんですね。
☆☆☆1/2
※1そんな彼なのに、残念ながら『MI4』ではダレ場を犠牲にしてしまったが故に、作品としての格というかスケール感を損なっていましたが…
※2ここで意図している意味での「所作に独特の魅力がある」スターとしては、トム・クルーズ、マイケル・J・フォックスのそれを想像していただければ。
※海を渡ったブラピそっくりさん芸人ことイチローが映るTVを主人公が眺めているシーンはなんだかシュールでした。