大尉のいのしし狩り(デイヴィッド・イーリイ)

 『一休さん』のエピソード。日々の贅沢三昧に倦んだ足利義満が、例によって新右衛門さんに「このわしを満足させるような究極の料理を見つけてまいれ」と命じます。そしてこれまた例によって「助けてくだされ一休どの〜」と一休の知恵を拝借に安国寺へやってきます。「仕方ないなぁ」と将軍さまを寺に招く一休、「拭き掃除や鐘突き、風呂焚き、寺の雑事を一日こなすことができたら、素晴らしい料理を提供します」。慣れない仕事にへとへとになった義満に出されたのは何と精進料理。しかし疲れた後のご飯は何にも代えがたいご馳走でした・・・「究極の調味料は労働」、というマスヒロにルドヴィゴ療法でもって叩き込みたいような結末。
 そういうオチなんだろうなと予想しながら読んだ「グルメ・ハント」は、シュールかつスラップスティックだけど意外とストレートなコメディ。表題作の「大尉のいのしし狩り」がやっぱり一番面白かったけれど、それ以外の収録作も、さすがスタンリイ・エリンに並び称されるストーリーテラーと唸らされました。凡庸なアイディアストーリー作家だったらツイスト一回で満足するところをもう一捻りしてみたり。
 ところで第一短篇集『ヨットクラブ』に比べるとR・ポランスキー的なニューロティックな恐怖を扱った作品の比率が多かった印象があります。安定した日常、日々の恒常性に固執するあまり、かえって精神の平衡を失っていく登場人物たちには他人事と思えない切実さが感じられて・・・。
☆☆☆1/2