ハーフネルソン(ライアン・フレック)

 「座持ちする」という言い方があるけど、似たような意味で「場持ちする」役者がいると思うんですね。出ていることで、映画に一種の風格をあたえるというか作品のクオリティを担保するというか。登場した途端「この映画は面白くなりそうだぞ」という空気を醸成してしまう。今までは『ウォーリアー』のトム・ハーディを例に挙げることが多かったけど、この映画の冒頭のライアン・ゴズリング※1はそれに比肩する「画面の捕捉力」でした。

 ところで映画は、型破りで生徒の信頼も篤い教師なんだけど麻薬に溺れている主人公と身の回りに麻薬の売人がいるような劣悪な環境から縁を絶てずにいる生徒の交流、という物語。なんとか現状を打破しなければならないと自覚していながら、なかなか依存から抜け出せない「弱い」主人公が、その切っ掛けを掴める…のか?というテーマは、同じ監督・脚本コンビによる『ワイルド・ギャンブル』と共通していますが、個人的にはこちらのほうが、劇的な展開をあえて設けていないこともあって好きでした。評価の高さも納得。特に生徒役のシャリーカ・エップス※2の毅然とした眼差しが印象に残ります。

 これは完全に蛇足ですが、映画そのものは現在の我々がイメージするライアン・ゴズリングの役者像の礎になった作品(2006年)だけど、それ以外にファッション・アイコンとして注目されていたじゃないですか。それがフラッシュバックするというか、とにかく衣装の(着崩し方の)格好良さがすごい。この時期ってそうだったよな!と思わず当時を思い起こしてしまいました。

☆☆☆1/2

※1『ドライヴ』のゴズリングも相当場持ちするけど。

※2ファルコンになる前のアンソニー・マッキーも出ていて、なまじ好漢なだけにたちが悪い麻薬の売人を好演してます。

サスペリア(ルカ・グァダニーノ)

 サスペリアというよりは鬼畜大宴会のリメイクかといった趣の作品でしたね。もっと下世話な感じでよかったし、やはり長すぎる。深遠なテーマゆえに長くなりましたということだったら本末転倒かな。

 それとオリジナルの良さはショックシーンのスパッとした鮮やかさだったと思うのですが、今作の所謂ホラー的くだりはいちいち執拗で(失禁とか嘔吐とか)、その鈍重さが受け入れにくかった。そこもランタイムが長くなった原因ではないでしょうか。90分くらいだったら、なるほど、そうきたか!と楽しめた気がするのだけど。

☆☆1/2

未来のミライ(細田守)

 この映画も賛否あったように記憶してるけど、『時かけ』や『サマーウォーズ』など過去作にあったような引っかかりは殆ど感じませんでした。むしろ階段を片足ずつ降りてくるような幼児の仕草や、赤子の手のひらの儚い感じ、雪の結晶!などの演出が素晴らしくて、そういう細部を愛でる作品ではないかと思います。

 くんちゃんが親の言うことも本当は分かってるんだけど、自分の主張も間違ってないはずだからと、ダブルバインドになってワーってなってしまう感じを見ていると、自分の幼少期の情動に不意に引き戻されて。そういう感情の喚起力があるのが素晴らしい。

 作品世界のルールについて納得できない、という批判もあったようですが、大雑把に言ってこの映画は「絵本」なので、それぐらいの大らかさで見た方がいいような気がしました。

☆☆☆☆

※お兄ちゃんが新幹線で赤ちゃんをつい叩いたり、お出かけ前に夫婦でピリピリしたりというよくある光景を見ていると、どこも一緒なのね…あと実家の両親がライトなダウンジャケット着がちというのが、そうそう!となりました。伊賀大介さすが。

 

万引き家族(是枝裕和)

 パルムドールに相応しい力作だったけど、『楢山節考』しかり、受賞はやはりある種のエキゾチシズムに依拠してる気もして、是枝作品だったら別の映画に授賞してほしかった。

 ケイト・ブランシェットが絶賛した安藤サクラはもちろん上手いというか凄まじかったのだけど、役者陣が皆素晴らしかった。かつ演技レイヤーが違うのに作品として違和感なく成立してるのもすごい。

 残念だったのは、物語の構造上仕方ないのだけど、取調べがあまりにも絵解きすぎる感じになってしまうところ。それはさておいても心揺さぶられる作品でした。

☆☆☆☆

※りんちゃんがキム・セロンかと思った(役柄のせいもあるけど)とか、リリーさんと樹木希林の組み合わせが東京タワーっぽいとか、パルムドールが期せずして緒形親子とか。意図せざる関係性が面白かったですね。

ボーダーTシャツ(ラコステ)

 実際には所謂ラコステの柔らかい鹿の子素材で出来ているので、クルーネックポロシャツというべきかもしれない。青と赤のボーダーのラインが入ってるところが、懐かしダサい感じで、一周しておしゃれ、というコンセプトだと思う(面倒くさくてすみません)。あとメイドイン仏、いわれるところのフレラコというのも売りなのかな。

 これまでもラコステのポロシャツが好きで、でも着丈が長いから、わざわざ補正して着ていたのだけど、最近ビッグサイズ、ルーズシルエットがトレンドになってきて目が慣れてきたのか、そのまま着ても悪くないなと思い補正はしてません。(でも長身痩躯で肩幅がないため、ルーズなデザインの服は今後も着ないと思う。)

 ところで20代以降の世代は想像もできないと思うけど、スリムフィットがスタンダードになる前は、現状のようなスタイルはピタピタすぎてありえないと思ったものなんだよね。あの時の潮流の変化は本当に劇的だったし、それが25年くらい続いているというのは栄枯盛衰が激しいファッションのトレンドにおいても珍しいんじゃないだろうか。

ザ・プレデター(シェーン・ブラック)

 公開時に話題になってたけど見逃してしまっていて、今回ようやく見たのですが、控えめに言っても最高でした。

 有名な話ですが監督は1作目に端役として出演していて、今回は監督として登板したということで「思えば遠くへ来たもんだ」という感慨もひとしおだったのではないかと独りよがりで思わずこみ上げるものがあったのだけど、実は1作目の時点でも『リーサル・ウェポン』の脚本でブレイクした後だったということで、想像していたような「役者として芽が出なかった人が脚本家・監督として名を成した」という訳じゃなかったようですね。その辺りの事はブルーレイの特典で要領を得た解説があったので、興味がある方はぜひご覧ください。

 ところで、監督は乱暴な展開、笑ってしまうほどえげつない暴力・不謹慎ギャグがトレードマークですが、今回は特にのびのびしてていっそ清々しい程でした。また、少年・少女との交流を通して自らのあるべき姿を見つめ直す、という近作では特に顕著なテーマがこの映画でも一貫してて、マーベルのヒーローものであろうが、今作のようなフランチャイズタイトルであろうが、パッケージの部分は代替可能なんだなということがよく分かりました。

 監督のフィルモグラフィでは『キスキス,バンバン』が一番好きだったのだけど、それを超えるぐらい好きかもしれないな。

☆☆☆☆

ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ(マイケル・ドハティ)

 どうしても書かずにはいられないけど、SNSでネタバレはよくないなと思い、ブログで書きます。つまりネタバレ全開です。(否定的感想なので、楽しく観られた方は読まないでください。)

・お母さんはゴジラによって息子を失ったことがどうしても耐えられなくて、「そのことに何か意味があるはず」という合理的な理由を追及し、追求しすぎて気が狂いそうになって(実際には気が狂って)、その果てに「怪獣は地球のためにある」という(彼女にとっての)真理に到達した。

 そのはずなのに、いざ娘を失いそうになると「私は既に息子を失ったのよ。これ以上娘まで失えというの!」とかいうじゃないですか。ちょっとまてよと。あんたの身勝手な思いつきで目覚めた怪獣によって、何千何万の「息子」と同じ状況が生み出されているとは想像しなかったのか?逆に言えばその程度の覚悟だったのかと。「お母さんを許して…ポチッ」みたいな展開だったらむしろマッドサイエンティスト上等だったのだけど。そういうところの首尾一貫性のなさが受け入れ難かった。

・それと、アメリカは核を簡単に扱い過ぎという点ですね。前作が既にしてそうだったけど、今回はさらに便利アイテム的で。よりによって「ゴジラ」に対して、「芹沢博士」がカンフル剤的に使うというのはどうなのか。それにあの至近距離での爆発だったら潜水艦に乗っていた人もただでは済まないでしょう。

・超巨大な怪獣が世界を焼き尽くさんと大暴れしてるのに、それを受ける人間のリアクションがスッテン、ズサーみたいな感じだから、え?大きいの小さいの?となりました。なんというか距離感演出や大きさ描写が全体的に杜撰だったような。

ゴジラ、オキシジェン・デストロイヤーで死ぬ目にあわされてるのに、エネルギーを補充してくれたら許すって、どれだけ心が広いのか…(5年ぶり2度目)

・伊福部テーマに免じて、そこはひとつ飲み込んでくれよな!ってずっと言われてるような気がした。ただ、監督は怪獣映画をちゃんとリスペクトしているとは感じました。

 え、世間的には絶賛なの?まあ『パシフィック・リム』もピンとこなかった人間なので。

☆☆