ゴジラ(本多猪四郎)

 芹沢博士の中では、最初からオキシジェン・デストロイヤーの使用を決定するというのは自らの死とセットだった、と考えると不憫すぎて泣けました。同時に、現実の原爆もそのようにせめて1回限りの再現性のないものだったらよかったのにという作り手の切実さを感じて辛かったですね。その点からいっても、ハリウッドのゴジラって総じて原爆の扱いがアイテムどまりでどうしても受け入れがたいのだけど、芹沢博士の持つ意味を考えたら、ああいう感じで安易に名前を使うのはやめてほしいし、さらに汚すような息子の在り様なんて言語道断だと思います。

 ところで初代ゴジラの怖さはよく言われるところですが、ゴジラの容赦なさがというよりは作品全体のトーンが怖いですよね。最後にゴジラを葬っても勇ましい音楽が流れることなく、むしろ鎮魂の祈りをこめた「終」が粛々と掲げられる。

 映画としてのリッチさが随所にあって、こういう感じで作るのは時代性もあって二度とできないだろうなと改めて感じました。

☆☆☆☆

※わざわざ書くのも無粋だけど、尾形との様子を見て、芹沢博士が恵美子は最初から手の届かない存在だったんだと(もともと分かってはいたのだけど)理解した時、また絶対秘密にしてくれと頼んだ秘密の発明を最初に尾形に話したのか…と知った時の絶望がもう泣けて仕方がないんですよね。その上で最後の最後に「幸せになってください」と伝えるところも書いているだけで泣けてくる。

ゴジラ-1.0(山崎貴)

 正直、ドラマパートの演出がむずがゆくなるほど厳しかったです。どうしてああいう感じになるのかな。安藤サクラを比較すると分かりやすいけど、是枝監督などのように「そのような人が話している」という自然な演出は役者のポテンシャル的にも可能なんですよね。つまるところ、山崎監督としては、ああいった大仰な喋り方がベストというビジョンがあるということなんでしょう。しかしそれは人物というよりキャラではないか?そこまでしないと伝わらないと思っているなら観客なめんなよと思うけど。本気で次のゴジラは低予算でいいから是枝監督か濱口監督が撮ってくれないかな。

 一方、オスカーを受賞した視覚効果は本当に頑張っていた。海のシーンにおける波のリアクション(船やゴジラに対する)の自然さに顕著だし、まさに海のシーンに授与したんじゃないかなと思いました。

 物語的には、主人公の敷島が大戸島でゴジラの幼生を仕留めそこなったことが発端であることになっているのだけど、あの場面で仮に飛行機の機銃を当てられたところで殺せなかったと思うし、なんなら敷島がまさに言うように整備士たちが撃ってもよかった場面ですよね。あれって、特攻から逃げてきたならせめて怪獣を命がけでやっつけろよという意識が(橘に)あったとしか思えない。皆で協力して何とか撃退しようという工夫があった上でならばと思うけど、敷島が自責しなければならない理由はないと思いました。ただ、そのようななりゆきはあり得ると思うので、ストーリーの瑕疵とは思わないのですが。

 一方、あの場面のゴジラは、深海に棲んでいる得体のしれない生き物の不気味さが出ていて、中途半端な大きさであることの怖さを含めて、素直にいいなと思いました。

☆☆☆1/2

 

ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃(金子修介)

 かねてから見たいと思っていて期待値が上がりすぎていたのか…製作年のせいか東宝というより東映的(というかVシネ的)だな、と思いました。役者が大根すぎ安すぎ。怪獣映画の人間パートってどうしてこういう感じになるのか…まあ演出が悪いからだと思うけど。実は『ゴジラ-1.0』を先に見ていて、演出が相当酷いと思ったのですが、こちらと比較すると随分ましだった気がします。

 進行上狂言回しが必要なのはわかるのですが、BSのなんちゃって報道番組のリポーターであるところの主人公の女性の行動がひどい。防衛の作戦行動に対して積極的に障害になるってどういうことだ?(しかも准将の娘である立場を利用して必要もないのに現場に近づくし)、大体なんのために命がけでゴジラに接近しなければならないのか、物語的に必然性が設定されていないのが根本的な問題だと思います。周囲の人には知られていないがゴジラ撃破の要になるアイテムや情報を持っているとかいくらでも工夫はできると思うのだけど、ただただ観客をイライラさせるだけ。

 それと、ゴジラが怖いという触れ込みだったけど、必要以上に積極的に市民を殺すだけだったのが…もっと超然としていてほしいと思いました。

☆☆1/2

グランツーリスモ(ニール・ブロムカンプ)

 「ゲームが実写に近づいたんだから、実写がゲームに近づいてもいいじゃないか!」、対へて曰く「そうですね。」という、それ以上でもそれ以下でもない話だったな、という印象です。

 これは作品の出来とは全く関係ないことなんだけど(いやそうでもないか?)、主人公の雰囲気が、どうしたいのか本気で取り組むつもりがあるのかっていうようなぼんやりした顔で、周囲の人がいらいらするのもむべなるかな、と思いました。もっときりっとした感じなら早い時点で応援したくなったのになあ…(あとオーランド・ブルームの役の立ち位置もルックスもぼんやりしてたな…)

☆☆☆

ディヴァイン・フューリー(キム・ジュファン)

 エクソシストって結局カトリック文化圏のみで有効ということは…という気がどうしてもしてしまう。当事者にとっては結果が全てなんだから解決すれば方法は何でもいいということなんでしょうけれど。

 それはさておき、ホラー・エンターテインメントとしてはジャスト普通といった感じでしょうか。『パラサイト』と同じ年公開で同じコンビで登場というのは何かしら共通プロモーション的なことがあったのかな?

☆☆☆

ロスト・フライト(ジャン=フランソワ・リシェ)

 すごく面白かった。『ダイ・ハード』以降、本当の意味でダイ・ハードみたいに先が読めなくて緊張が持続する映画は(続編含めて)なかったと思うのだけど、ようやく比肩する作品が登場したという印象でした。

 加えて、誰も「物語のために」ミスすることがなかったのも良かったです。登場人物皆が求められている役割を果たすことに全力を尽くすし、相棒となるガスパールが用済みになった敵を容赦なく射殺しても、センスのない作品なら(主人公であるからには倫理的な葛藤がないと十分でないと考えて)「なぜ殺したんだ?」みたいなセリフを言わせて「他に選択肢があったなら教えてくれ」と返されてから黙り込む、みたいな描写を入れてくるところ、サクッと「この状況なら仕方ない」と次の行動に移るところが快適でした。

 それと、脱出するだけだと若干カタルシス不足を感じるところですが、きっちり敵に対してやり返してやった感のある場面を設定しているのも分かってるな!という感じがして嬉しかった。いやー最高だったな。

☆☆☆☆1/2

パーフェクト・ドライバー(パク・デミン)

 完全に『グロリア』という感じでした。手堅く作ってあって面白かったです。カーアクションは確かにすごいけど、バリエーションはもう増やしようがないのかな。あまり目新しい感じはしませんでした。国家情報院がもっと物語に有機的に絡めばずっと面白くなりそうだったけど、もったいなかったですね。

☆☆☆1/2