アトミック・ブロンド(デヴィッド・リーチ)

 エスピオナージュというジャンルは、結局、ハードボイルドと同様に形式そのものに淫する在り様を指すのだなと納得しました。

 端的に言うと「なんかいろいろな思惑がある勢力が複数入り乱れて、主人公は自分自身もよくわからなくなりました」という枠組みなので(ただし本作はエンターテインメントらしいオチをわざわざ付けている)、観客(読者)は翻弄されることそのものを目的として観に行くわけですよね。だから物語の本筋は何かを追及してもそもそも得るところがない。

 この映画の発明は、そこにひたすら躍動する身体を加えたところ。置いてきぼりにされることが目的であるジャンルだから、本来は好事家向けの作品になりがちなところ、シャーリーズ・セロンという強力な主体を得て、ただ戦い続けるのを見続けるうちに、なんだか話が前進しているように錯覚する次第。素晴らしかったと思います。※

 ところで、『ジョン・ウィック』は1作目のすっとぼけた世界観が好みだったのに、2作目からはしかつめらしい真面目ぶった作風になったのがガッカリだったのですが、一方で『デッドプール2』は大人向け悪趣味コメディのバランスが絶妙だったんですよね。ということは、リーチ監督の作風が僕は好きなんだな。

☆☆☆1/2

※ボーンシリーズがあるじゃないか、という声もあろうかと思いますが、あれはちゃんと起承転結のある物語主体の作品(筋を追うことに意味がある)なので似て非なるものと考えます。『ジェイソン・ボーン』は蛇足だったけど。

スリー・ビルボード(マーティン・マクドナー)

 『ヒットマンズ・レクイエム』を観て、オフビートという言葉でも上手くいえない変な映画を撮る人だなと思ったのだけど。今作はむしろ舞台でも成立する話だな、というのが第一印象で、事後に実は劇作家として既に名を成した人だったのだと知って、さもありなんと思ったことでした。

 もちろんこの映画は、映画ならではの表現としか言いようがない巧みな演出と描写があって、だからこそアカデミー賞でも話題の中心になった訳ですが。舞台的であると感じた理由は、むしろ物語の構造というか人間関係の抜き差しならなさに眼目が置かれている点で、考え抜かれた人物配置と展開が、むしろその精緻さ故に作り手の存在が感じられるというか。役者陣の見事さもあって、ためにする机上の話だな、とまでは思わないのだけど、観客の気持ちに揺さぶりをかけることに注力されている感じが、演劇であれば気にならなかったのではないか、という気持ちになりました。

☆☆☆

パシフィック・リム: アップライジング(スティーヴン・S・デナイト)

 映画としての精度でいえば前作なんだろうけれど(そして実はあまりピンとこなかったのだけど)、子どもが独力でロボット作ってたり、その上いきなりスカウトされたり、ふらふらしてた主人公がいきなり教官になったり、という無茶にもほどがある物語が逆に「巨大ロボットもの」って本来こうだよね、だって子ども向けなんだもの、という潔さを感じさせて好きだった。

 そういえば、最近は娯楽超大作といえば中国資本が欠かせない訳ですが、序盤から中国をディスるような展開があって、人ごとながら大丈夫かしら…と心配しながら観ていたのだけど、最後はきっちり花を持たせる作りになっていて、そうだよねそりゃそうだよね、と思ったことでした。

☆☆☆

スピード・レーサー(ウォシャウスキー姉妹)

 もっと箸にも棒にもかからない映画かと思っていたら、割合面白かった。展開や理屈の飛躍が過ぎるけど。

 アニメでも映画でも、騒がしいガキと動物は苦手なんですが、この映画に関してもやっぱり好きではなかった。けれども、監督たちの「そこは譲れない」という透徹した意思を感じて、飲み込まざるを得なかったな。

☆☆☆

ペンタゴン・ペーパーズ(スティーブン・スピルバーグ)

 政治的なイシューって、最終的には決定権のある個人(政府報道双方含む社交界メンバー=現代の貴族階級)の感覚的、感触的な部分で決まることが顕わになっていて、そこが面白かった。だからこそインテリジェンス活動の介入する余地がある、ということでもあるけど。

 ただ映画作品として見たら、この後『大統領の陰謀』があるんだな、という補助線なしでは物足りなさも感じたのが正直なところでした。

☆☆☆

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

 『ねじまき鳥』以前と以降が僕の中の村上春樹の区分なんだけど、近年の作品では一番好きだった。この作品自体の幻想的要素は控えめだけど、初期の感触に近いというか。普遍的な青春とその喪失の物語ですね。(エピソードとしては極端だけど)青春時代においてはその友情が紛れもなく尊い結びつきであったとしても、いつかそれぞれの道をゆくことになる、というのは人生の真理であって。

 ところで、村上作品は、ごく初期に「時代に密接すぎる固有名詞は安っぽくなるからやめた方が」みたいな批判があったと聞いて、読んでいてそんな違和感は感じないけどな…と思ったものだけど、今回スターウォーズやダイハードと出てきたら、ムム、となったのでリアルタイムじゃないと分からないこともあるのだな。結局、60年代以前の文化がむしろ普遍的なものとして感じられるのは、自分にとっては、もはや伝説や歴史に属する世界だからなんでしょう。

☆☆☆☆

※余談ですが、主要登場人物のひとり、アカが披露するパンチラインが完全に『ファイトクラブ』なのは、どう受け止めたらよいのか?本人が嘯くようにあちこちからのぱくりということを裏書きしているってことなんだろうか。

ボヘミアン・ラプソディ(ブライアン・シンガー)

 久しぶりにこんなに入っているのを見たな、というくらい映画館がいっぱいだった。正直、物語そのものはあまり葛藤みたいなものがなくて、割とあっさり風味だったけれど、ヒットしているのはそれ故かもしれないと感じました。バンドメンバー優しすぎるだろ!

 監督と一応クレジットされているブライアン・シンガーは、最終的には放り出してしまったらしいけれど、「ありのままの自分を受け入れてほしい」と希う青年、ということでは本当に一貫してるなと感心。実際、ライブシーンは噂通り圧巻だったけれど、自分が心を打たれたのは「俺はなりたい自分になったんだ」と心情を吐露するその直前のシーンでした。映画の成功の何割かは、主演のラミ・マレックのイノセントな瞳の演技に拠るものだと思います。

 役者陣が素晴らしかった。特に、ライブエイドの場面でブライアン・メイ(グウィリム・リー)が演者側であるにも関わらず、「音楽の恩寵」に打たれたかのように「これを演奏しているのは俺たちなんだぜ?!」という表情を浮かべるシーンが印象的でした。

☆☆☆1/2