ロング・エンゲージメント(ジャン=ピエール・ジュネ)

 ピンになってからの作風を考えると、(「エイリアン・リザレクション」はスタジオ側の要請でああいうテイストになったものの)ジュネ&キャロのロマンティック担当はジュネだったのだなあと。

 ビジュアリストとしての側面は、潤沢なバジェットを得て思う存分やり放題だったようで。草原を吹き渡る風とか、炎上する飛行船などのシーンは映画館で観たかった(最近こればっかしだな)。

 しかし予算の大小に関係なく、やっぱり登場するギミックへのフェティッシュなこだわりが嬉しい。(例:黒衣の花嫁チックな暗殺用からくりピストル、くるみ割り義手、等)

 ジュネに縁のある俳優総登場的なキャストに加え、ジョディ・フォスターの思わぬ出演とかドニ・ラヴァンのもっと思わぬ出演とか。マリオン・コティヤールは「タクシー」や「ビッグ・フィッシュ」やこれ、と結構演技の幅が広いねえと見直してみたり。出演陣も大作ならではの楽しみ方ができる。

 「語り」のスタイルは割りと『アメリ』を踏襲している。あの作品での「好きなこと、嫌いなこと」や「アメリの生い立ちの紹介」の際の、「深刻な事もどうでもいい事も、フラットに羅列して語る」という演出は、J・アーヴィングやヴォネガットなどのちょっとシニカルなトーンで知られる現代文学作家の語りのスタイルを想起させたけれど、今回はまさにそれそのもの。

 冒頭、第一次世界大戦の戦場にあって、5人の兵士が「戦線離脱を目的とした故意の負傷を負った」罪で軍法会議にかけられ死刑を宣告される。(そのうち一人がヒロインの恋人である訳だが)彼らそれぞれの死刑宣告に至るまでの経緯が語られる、そのスタイルが「戦争不条理喜劇」のトーンなのだ。具体的なタイトルで挙げれば「スローターハウス5」や「キャッチ22」とか「カチアートを追跡して」的な感じ。先に書いたように、このスタイルというのは「アメリ」でのフラット語りの延長にあるので板についたもの。この方法論で全編通してみてもよかったのになあ、とも思った。

 さて一方、こちらが本当はメインなんだけど、オドレイ・トトゥ演じるヒロイン、マチルドの「戦場で行方不明になった恋人探し」のパートがある。死刑囚5人が残した遺品を手がかりに、恋人の影を追ってフランス中を飛び回るミステリ風の物語。バラバラだった要素が収まるべき箇所に収まっていく、という過程がスリリングな、しかし極めてオーソドックスなストーリーテリング。公開時には上記の戦場パートとの齟齬が大きく、歪な作品になってしまっているという批評もあったようだ。確かにその指摘も的外れではないけれど、どっちも楽しめたのでよしとしようじゃありませんか。

 「調達の鬼」とか「ジャリ道を見ると自転車をドリフトさせずにはいられない郵便配達夫」みたいなキャラが立った登場人物が目白押し。というように、あらゆる要素に満腹感がある、本来の意味で大作らしい大作。すごくお薦めです。

☆☆☆☆1/2