色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

 『ねじまき鳥』以前と以降が僕の中の村上春樹の区分なんだけど、近年の作品では一番好きだった。この作品自体の幻想的要素は控えめだけど、初期の感触に近いというか。普遍的な青春とその喪失の物語ですね。(エピソードとしては極端だけど)青春時代においてはその友情が紛れもなく尊い結びつきであったとしても、いつかそれぞれの道をゆくことになる、というのは人生の真理であって。

 ところで、村上作品は、ごく初期に「時代に密接すぎる固有名詞は安っぽくなるからやめた方が」みたいな批判があったと聞いて、読んでいてそんな違和感は感じないけどな…と思ったものだけど、今回スターウォーズやダイハードと出てきたら、ムム、となったのでリアルタイムじゃないと分からないこともあるのだな。結局、60年代以前の文化がむしろ普遍的なものとして感じられるのは、自分にとっては、もはや伝説や歴史に属する世界だからなんでしょう。

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※余談ですが、主要登場人物のひとり、アカが披露するパンチラインが完全に『ファイトクラブ』なのは、どう受け止めたらよいのか?本人が嘯くようにあちこちからのぱくりということを裏書きしているってことなんだろうか。