イリュージョニスト(シルヴァン・ショメ)

 去りゆく時代への惜別の思い。ちょっと感傷的にすぎるのかもしれないけれど、こういう話が好きだから仕方がない。去年観てたらベスト3に入れていたと思います。
・手書きの味をわざと残したような作画の中で、3DCGのオブジェクトを馴染ませているのが凄い。『ベルヴィル・ランデブー』でもかなり野心的な取り組みをしていたけれど、今回はもっと技術が向上していたような。
・当たり前ですが、アニメは描かれたものしか映らない訳だけど、天気雨とか上空高くの雲が地表に落とす影とか、まるでふと映り込んだかのような演出で、そこにある光景を「撮影」しているように見紛うほど。「フィルムの中にまるまる世界を作り込んでしまいたい」というショメ監督の志向というかオブセッションは、なるほどタチに通じるものがあるのかも。
・「WALL-E」でアンドリュー・スタントンがマヌーシュ・スウィングをサントラで使おうと思ったら先に「ベルヴィル・ランデブー」でやられて断念した、というエピソードがあったけど、いま「イリュージョニスト」を観てたら製作会社が「DJANGO FILMS」だった。ショメ監督本物ですね。今回はどちらかというとシャンソンだったけど。
・前作はやはりエンディング※のいわく言い難い寂寞とした空気(あんな大立ち回りの後で!)が余韻を残したものだったけれど、テーブルで枯れていく野草とか、店晒しにあう腹話術人形とか、今回は要所にボディーブローのように切ない描写が挿入されて、どこで感情の堰が切れてしまうか自分との闘いでした。
 といったことは本当に些末なことであって。言葉にしようとすると零れ落ちるものが多すぎる、というのは表現としては全くもって逃げの姿勢なんだけど、観ていただくほか伝えようもない気分で胸が詰まりました。ということで感想に代えさせていただきます。
☆☆☆☆1/2
※今回も少女アリスの「飛翔」に重ねあわされたと思しきエンディングに心打たれました。本当に素晴らしい。