ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

 著者の作品は、エッセイは読んだことがあったけれど小説は初めてでした。最初の印象は「長嶋有」みたいだな、というもの(そこでいうと、エッセイの時点で、ブルボン小林的だなと思っていたのですが)。ただ、長嶋有がコンセプトから小説を構築するような方法論だなと感じるところ、津村作品は正に地べたからの視点、生活実感に即した物語なのが大きな違いですね。

 さて本作は、架空のJ2に属するチームの最終節、それがまさに日本全国同じ「その1日」、ザ・デイな訳ですが、(登場人物によっては図らずも)サポーターとなった人々それぞれの物語が描かれます。ところで僕自身は全く熱心なサポーターではないものの、地域のチームの勝敗についてはやはり気になったり、それ以上に息子たちのサッカーに関わるようになっての実感として、サッカーとはやはり特殊なスポーツなのかもしれない、ということ。

 サッカーという競技は、良くも悪くも人生の一部を否応なく巻き込んでいく力があって、それが文字通り全世界に広がっている所以なのだと思うけど、やはり魅力というより魔力という方が適当だなとすら個人的には感じている現状があって。 「誇り」という感情の大切さが描けたら、というのが作者のコメントでしたが、それ以外の曰く言い難い「影響力」についてまで図らずも描けている、射程が及んでいることに関しては、文庫版の星野智幸による「解説」が的確に補完してくれていて、すばらしい補助線になっていました。

 いろいろ書きましたが、作品自体はごく淡色のスケッチのような物語であるにも関わらず、読んでいるうちにわけもわからず落涙する場面も多くて、これも小説の、サッカーの力かなと思いました。特にサッカーに思い入れがない方にもお薦めします。

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