(ネタバレ)『深夜プラス1』は研ぎ澄まされたソリッドかつストイックな筋運びで大好きなのですが、こちらは物語がどこに着地するのか分からないまま小事件が頻発して、最後に至って種々の要素が「そういうことだったのか!」という結末に収斂するというエスピオナージュ風の冒険小説でした。
と言い切ってしまえればよかったのだけど、全部繋げようとしてプロットに若干無理があったなというのが正直な印象です。敵役のバックグラウンドの設定はまあ飲み込むとしても、英国情報機関は何を目的として工作員を送り込んだのか?破壊工作(もしくは機密情報収集)→撤収という短期作戦ならまだしも、長期にわたって極地に潜入する作戦なんてあるのかな…
それはさておき、『アイガー・サンクション』や『北壁の死闘』の山岳登攀描写に比肩する手に汗握る航空描写と戦闘描写は最高でした。プロフェッショナルの矜持に関わる心理も、そういうものかもしれないなという納得度の高さがあります。その一方で、ツンデレ美女や小悪党相手に主人公が披露する小粋な遣り取りは、どちらかというとロス・トーマスの作品に接近していて、あれ?ロス・トーマスを読んでいたんだっけ?となりました。まあ書かれた時代のせい(WWⅡの記憶も生々しい頃)かな…
ところで、殺し屋的な主人公が彼に憧れるルーキーに挑まれて、心ならずも倒してしまった時に、「俺どうだった?」と問われて「お前は最高だったよ。あの偶然がなければここに斃れていたのは俺だったさ」、ルーキーは微笑みながらガクッ、という一種定番になっている展開がありますが、あの原型ってこの作品だったんですね。
☆☆☆1/2