今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は(大九明子)

 話題の映画ですが、なるほどすごかった。というかすさまじかったです。

 作品としては、共感性羞恥というか、「どこで俺のことを見ていたんだ?」というようないたたまれなさすら感じる(経験してない仮想の青春を生き直すような)、リアルでみっともない大学生活の再現がすごいな、と感じました。山根みたいな変わった(しかしかけがえのない)友達、大学の近くだから存在できる個性的すぎるお店、バイトを中心としたもう一つの別の人生のような生活圏。たまたま趣味や価値観が同じ(だと思い込んだ)女の子に、突然距離を置かれたと感じたり、そのくせ他の人には十分な心配りができなかったり…

 相変わらず大九監督作品らしく、撮り方や編集、音の使い方が特異で、より先鋭化していた印象を受けました。しかしながら物語のテーマから選び取られた表現方法としての必然を感じられて、飛び道具に終わっていた従来の作品でのトリッキーなパートより受け入れやすかったです。

 誰もが指摘するところですが、長台詞シーンが絶句するほどの素晴らしさでしたね。どのような映画であっても「長回し」は大なり小なりそれ自体が目的化してしまう印象を受けるものですが(ここで入れたいと思ったんだな、という作り手の存在をどうしても感じてしまうという意味で)、この作品では発言する登場人物の「どうしてもひと息で言わなければならなかった」という切迫感にリアリティがあるため、作品構造としては様式的でありながら、そのような作為性の陥穽からは自由であったように思われました。任せた監督も偉いけれど、受けて立った役者さんもすごい。完全に役を体現した上で自分の言葉として発しているようなスムーズさ。主人公の気持ちを想像し、ヒロインたちの感情にも思いを馳せ、そういえばと過去の記憶も甦りそうになり、感情の奔流にこちらも押し流されそうになりました。もう主演女優賞と助演女優賞のワンツーフィニッシュでいいんじゃないかな。

☆☆☆☆

※あえていえばタイトルに難を感じました。(原作がそうだからしょうがないけど。)『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』という感じの題って類型としてありますよね。もともとのコンセプトが「徹底的にステレオタイプな青春ものの要素を踏襲しながら全くそうではないところに着地する」ということだったと思うので、反語的に採用したのかな…