(ネタバレします。)白い果実三部作の完結編です。完全無欠の大団円ではなくて、ペシミスティックな引っかかりを残したエンディングは、ちょっと手塚治虫の長編を想起させる印象でした。ただ、個人的には主人公のクレイは贖罪を果たして、自らの帰るべき場所をようやく見つけたのだと思うし、(主人公と心で繋がった)相棒のミスリックスに対しては、ウィナウを眠り病による崩壊の危機から救った貢献者としての立場を街の人々が思い出したと信じたい。※1
静的で観念的だった2作目から転調して、「過酷な辺境の地を彷徨う旅人」という(例えばジャック・ロンドンの『火を熾す』のような)アメリカ文学の系譜に連なるロードノベルでした。そこからこのファンタジー世界のコアを成す「彼の地」の歴史を辿る大河ロマンとして広がっていくという、これ以上ないくらい個人的には完璧な幻想文学になっていました。それと、第二部で駄犬として登場した猟犬ウッドが、こんなに頼もしい相棒として縦横無尽に活躍するとは!キャラクターとして、とても素晴らしかったです。
☆☆☆☆1/2
※1 そもそも「楽園」に到達することを目指してクレイは旅立ったのに、要となる品物である緑のヴェールを理想形態市に置きっぱなしにしていくことは考えられない、ということはエミリアが言うとおり、時間と場所を超越して「彼の地」の通い路をくぐり抜け、飛んできたのではないでしょうか。
※2 作者の短編集を先に読んでいたのですが、モチーフがかなり共通しているので、長編を構成する要素を発展させて起承転結のある物語に再編したのではないか、という気がしました。