バービー(グレタ・ガーウィグ)

 確かに、なにかしらアカデミー賞の部門を獲得してもおかしくないクオリティでした。(一方で、獲りにくい作品だろうな、とも思ったのですが。)そもそもクオリティ云々以前に要素全体の調和が素晴らしかった。脚本※1、プロダクションデザイン、音楽、そしてもちろん演技。絶妙にダサさを残した「完成されすぎない」完成度で、ディズニー作品のようにしたり顔で満点を誇示するようなビジネス的多様性配慮「感」がないのも好印象でした。

 また、ガールズエンパワメントに留まらない、「そもそも人らしく生きるとは?」という根源的な問いに果敢に挑んでいたし、おもちゃに仮託して親子や人生について考えるという視点は『LEGO® ムービー』が一つの達成を既になしていた訳ですが※2、バービーという切り口で改めてアプローチする意味をちゃんと持たせていたのがよかった。

 脚本上上手かったなと思ったのは、ケンが人間界での経験を通じて「目覚め」、バービーランドでの彼のいわば抑圧された境遇(ここが「女性の抑圧された日常」の写し鏡になっているのも慧眼)から脱出するためにクーデターを画策する訳ですが、本質的に「バービー世界の付属品である」という構造的なおぞましさはどうすることもできない種類のものだけど、主人公のバービーが人間界へ旅経つことで、その点がなんとなく不問となる着地になっているところでした。(もちろん作品としては、ケンは個々人の「僕」でいいんだよ、という回答はあるのですが。)

 役者陣の演技も、カリカチュアされたハイテンションな人形演技と、ひとりの人間として苦悩する繊細さを演じ分けていて素晴らしかったですね。マーゴット・ロビーはタイトルロールを堂々と引き受けるさすがの安定感だったし、特にライアン・ゴズリングはコメディとチャームがないといけない役でしたが、ミッキーマウス・クラブで子役の頃から叩き上げてきたせいなのか「仮想世界で生きる悲哀」を自然と体現していて、そこもよかったと感じました。

 まあテーマからいってこれくらいだろうと侮っていた予想をスカッと超えてきた映画でした。コメディとしてもとても面白かったです。

☆☆☆☆

※1 テーマもアプローチもかなり近接している『ドント・ウォーリー・ダーリン』が、「与えられた完璧」もまたディストピアの一形式である、という今更なテーマを時間をかけてやっていたことに比べて、冒頭の30分でさっさと解消してしまうのも手際がよかったですね。

※2 その上で参照元への敬意をウィル・フェレル出演という形で示していたのもスマートだったし、やはり彼は最高だと思いました。

※3 全然本題とは関係ないけれど(いや関係あるのか?)、少しトウが立ってきた役者があえてかなり若い感じで演じる、というハリウッドのひとつの型をやりきっていてそこも好きでした。