侍タイムスリッパー(安田淳一)

 世間での高評価も納得のいい映画でした。低予算自主映画の思わぬ大ヒットということから『カメラを止めるな!』が引き合いに出されることもあったと思うのですが、こちらはツイスト勝負の脚本ではなくて、導入こそタイムスリップですが、全てにおいて愚直なまでにスタンダードなことが功を奏したのだと思います。

・リアルの武士の時代のくすみ加減とちょっとテカテカした「時代劇」のメリハリが低予算ながら付いていて画面作りの工夫がよかったですね。

・ヒロインの助監督周りの雰囲気や画面作りが80年代のアイドル映画風で懐かしかったです。あれってやっぱり演出のトーンが醸成するものなのかしら。

・トーンのメリハリでいうと、殺陣でなく仕合で、と申し出た時の覚悟を決めた高坂の立ち居振る舞いが明らかにレベルの違う剣術になっていて素晴らしかった。作品が低予算ながらこれだけの説得力を持ったのはひとえに主人公を演じた山口さんの技術の賜物だと思いました。

・その点でいうと敵役というかライバルかつ同志でもある風見の役は、物語からすると相対的に損な役回りではあるのだけど(それと率直にいって殺陣の技術では見劣りする印象もあったけど)、結果的に死ぬことになっても仕方ないという「受ける覚悟」を見せる演技が素晴らしくて冨家さんもよかったですね。

・SF的なツイストで作品としての決着を図るのかと予想をしていたのですが、堂々たる殺陣で見せ切っていて、こういう作り方もありなのかと感心しました。

・正直、主人公がその後の会津藩の顛末を知ったところから結末まで涙があふれて止まりませんでした。すごくよかったと思います。

☆☆☆☆

※1「だが今日ではない」というセリフはちょっと流行りだけどね…

※2 こまごまと主人公の心情をこのように捉えました、と書くのは無粋だと思うのだけど、実際に自分の立場を命がけで証明するしかなかった仲間たちの死を知って、おめおめとぬるま湯の人生を生きている訳にはいかないと考えてしまった気持ちを考えると泣けてきたんですよね。「真剣勝負で生きていた時代があった!」みたいに、あの時代を称揚するような気持ちは僕には全くないのだけど、主人公のように考える(そのように育てられた)時代があったのは事実だろうし、一方で現代において平穏無事に生きるだけでもよかったはずの風間が、主人公の覚悟を知って、自分にもそれを引き受ける義務がある(会津藩の顛末を彼もやはり知っているから)、と思いなすのもまた理解できて、涙が止まりませんでした。