最高でした。ディストピアものにして幻想文学。世界幻想文学大賞受賞も納得の作品(あえていえば受賞作品群に共通の匂いがします。あの感じです。)。『最後の三角形』や『言葉人形』が素晴らしかったので気にはなっていたのですが、あの密度で長編を読むのは厳しいかな…と腰が引けていたところ、思い切って手に取ってみたらさらさら読める波乱万丈のロマンでした。
一方で、「マッドサイエンティストによるグロテスクな実験と、その犠牲になるうら若き乙女」、「彼岸と此岸のあわいをつなぐドラッグ」みたいな、短編で繰り返されるモチーフが登場して、なるほどこういう使われ方をするのかと得心したし、だからといって(エリック・マコーマックみたいに)本来短編向きのアイディアを継ぎ接ぎしたという印象はありませんでした。それと、夢の世界と現実世界、過去、現在、未来が等価という描写(手品のようにシームレスな語り)が実に見事で、フォードの巧みさが堪能できました。
全体で言えば、キャラクターアークに則った作劇、序盤で配される伏線の的確な回収、という物語の結構はかなりトラディショナルかつオーセンティックなもので、そこがしっかりしているからものすごく突飛な設定や描写が出てきても読みやすかったのだと思います。端的に言えば『クリスマス・キャロル』ものであって、およそ好感が持てない主人公の回心の軌跡なんですよね。
さっそく続編を読もうと思っているのですが、ちょっと心配なのは『悪童日記』3部作みたいにメタフィクションにシフトしていかないかどうかというところ。物語の外側の構造が前景化してくると醒めてしまうんですよね。あれはあの時期の現代文学の悪癖だと思うのだけど。
☆☆☆☆1/2