正直『愚者の街』が最高だったので、あの屈折した感じをどうしても求めてしまうのだけど、手に汗握るストレートな冒険小説としては素晴らしかったです。いかにしてベルリンの壁を潜り抜けるのか?というメインプロットが既にして緊迫感を生じせしめている。敵も味方も信用ならない、信じられるのは相棒だけ、という展開が熱いけれど、一方で邪魔する人間(含む一般人)は躊躇なく殺すのが冷徹すぎてかなり引く。書かれたのがベルリンの壁ができてから4年という時代性故なのか…それと『愚者の街』に顕著だった奇怪な人物のグロテスクな振る舞いって、ウィリアム・ゴールドマンやトレヴェニアンのトレードマークだと思っていたのだけど、作者にも割と近しいものを感じるので、自分が知らなかっただけであれは60年代~70年代のトレンドだったのかもと思い始めました。
さて、感想では読みにくいという意見が散見されて、僕も確かにそれを感じるのだけど、理由としては、①プロットが複雑、②独特の文体、にあると思いました。①は大雑把な方向性だけ決めて、結構勢いで書いているからじゃないかと推察。この作品に関して言えば、主人公たちのどこに向かえばいいのか?という焦燥とシンクロするところがあって、欠陥にはなっていない。②は最初は翻訳のせいかと思ったけれど、これまで3冊著作を読んできて概ね同じような文体に落ち着いているから、これは作家のくせなんですね。ワイズクラックみたいに気が利いていて、しかも含意があるというセリフの応酬ですが、腹に一物ある人物ばかりが輻輳するから、あれ?これ今だれが喋っているの?と迷子になりやすい。だから時間がかかるんですよね。
ところで「ぶどう酒」「喫茶バア」という訳文にも時代を感じます。確かに、ぶどう酒ってある時期まで童話に限らず小説なんかでも使われていた言葉でした。ワインが一般に浸透したのって90年代かな。後者はいまだったら普通にカフェですよね。
☆☆☆1/2