クイーンズ・ギャンビット(ウォルター・テヴィス)

 すごく面白かったです。実はドラマは見ていないのだけど、とても評判がよかったので気になっていました。ノベライズだったら何となく読まなかったと思うのだけど、原作小説であって、しかも作者は『ハスラー』や『地球に落ちてきた男』の原作も書いていると知って俄然興味がわきました。

 主人公のベスは8歳で天涯孤独となり孤児院に入るという境遇なのですが、そこから養子として引き取られるも(少なくとも主観としては)あまり心から満たされるということはなく、自らの存在証明であるとともに将来の道を切り開く術でもあるチェスの技術を磨いていく。しかしチェスの天才であるということは、自らを孤高の位置に押しやるということでもあり、ベスは2重の意味で孤独を抱えることになる…

 実際に読んでみるとかなりハードボイルドで、心の不安定さを薬やアルコールで紛らすという心理描写の辛さもあって、ひりひりする感触でした。「孤児という生い立ちとそれに伴う他者との関わり方の難しさ」は確かにこういうものかもしれないと思わせる、そのことを主観でしかもごく簡潔に描く筆力。その一方で、(指し手の妥当さは全然分からないのだけど、そうであるにも関わらず)チェスの勝負の展開は否応なく読ませる吸引力があって素晴らしかったです。それと「健全な精神は健全な肉体に宿る」という真理を重要な局面でさらりと入れてくるところもよかったですね。

☆☆☆1/2