ダイ・ハード(ジョン・マクティアナン)

 初めて見たときは、主人公と敵の打つべき手の読み合いが実に巧みで、すごくよく練られた脚本だなと思ったものですが、後から舞台裏を知ったら、実は現場でアドリブで続きを書いていたということで、脚本が緻密だから上手くいくわけでもないから、映画って不思議だなと感心したものでした。(似たような成立状況としては『ローグ・ネイション』もそうだったらしいのですが。)

 それはさておき、久しぶりにプライムで見直して、訳がまた思っていたのと違う印象だったんですよね。吹き替え、字幕など、テレビ放映でも脚本をその都度作ったりするそうですが、この作品を見るたび翻訳としての正解が気になるセリフがあって、それを書いておきます。

・FBIがビル屋上を強襲するシーンで、「ベトナムを思い出すぜ」という言葉に対して「まだ生まれてませんでした」というバージョンと「まだガキでしたから」というバージョンがありますよね。特に重要ではないけど全然違うなといつも思います。

・その二人が屋上の爆発に巻き込まれて死亡した時、今回の字幕だと、ロス市警のドウェイン警視が「またFBIを呼ばなきゃ」というんだけど、あるバージョンだと「替えのFBIがいるな」というんですよね。後者は、粋がってても所詮代替可能なやつらだ、というドウェインの気持ちを端的によく表していて名訳だと思いました。

・前半、高木社長が殺されるのを隠れ場所からただ見ているしかなかったマクレーンが、いつもの自問自答で「どうして出ていかなかったマクレーン?…(出て行ったところで)どうせ(自分は)殺されてたさ」という訳に今回はなっていたのですが、過去の訳だと「…そうさ自分が殺されるのが怖かったんだ」というバージョンがあって、物語の展開上ここから奮起することになる転換点なので、これも後者の訳がいいなと思います。

 好きな作品ほどそういう差異が気になるけど、翻訳のちょっとしたニュアンスで映画のイメージが変わるから、翻訳者って大事ですよね。

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