殺しの接吻(ウィリアム・ゴールドマン)

 最初に読んだのは翻訳が出た頃だから随分前なのですが、その時の印象以上にすごく面白かったです。そういえば1回目は穿った読み方をしすぎて、序盤、犯人は主人公の別人格なんだと思いながら読んでいました。

 改めて読み返すと、ゴールドマン節というかクセというか初期作なのに(だからこそ?)全開ですね。例えばこんな感じ。

・肉親の言いぐさが笑ってしまうくらいひどい。心が曲がってしまっても仕方ないほどに。でもそうならない人が主人公※に据えられるんですよね。(読者の共感を呼ぶためのテクニックでもあると思う。)

・主人公・脇役問わず、すごく登場人物に対して冷たい。端的に突き放している、非情と断言してもいいくらい。(読者はそこがなぜか癖になってしまう不思議。)

・セリフがすごく気が利いているし、かといって説明しすぎない。状況説明も兼ねている効率的かつ的確な描写。(考えオチ的に真意を能動的に読まないといけないから読書してる!という快さがある。)

 (有名になりたくて連続殺人犯として虚偽の自首をしてきた男を追い返したら、戻ってきて)「あんた首を振ってたな。なんで首を振ってたんだ?」モーは笑みを浮かべた。「ときどき、意味もなくただ首を振るんだよ、ミスタ・クーパーマン

 ともあれ、異常な設定と展開でぐいぐい読ませる腕力があって、ディテールも凝っている。それでいてコンパクト。素晴らしい。

☆☆☆☆

※主人公モー・ブランメルはとある事故のせいで醜い容姿になってしまったのだけど、伊達男の代名詞であるボー・ブランメルにかけているんでしょう。