愛がなんだ(今泉力哉)

 総じて役者陣は素晴らしかったけれど、若葉竜也がとにかくすごかったですね。ワンカットの中で驚き、喜び、悲しみがないまぜになった感情が現れる。(演技とはそういうものだとは思うけれど)本当に本人としてそう感じているとしか思えない表情。よくあんな演技ができるな、と感心しました。

 そのような中で、唯一不満だったのが、マモルがテルコが料理しているのを後ろからちょっかいを出すシーン。あれは本来なら女性慣れしている「恋愛強者」の振る舞いを演出している場面だと思うのですが、終盤、「山田さんがそんな気持ちでいるとは気づいてなかった」と嘯くマモルのセリフは「素でそう思っている」描写になっていたこと(本当に愛していた訳ではないが、逆に気づいていて蔑ろにしていた訳でもない)とのギャップ、それとああいう振る舞いができる男は(根拠はどうあれ)いつでも自信満々なのであって、すみれさんに対しても臆することなくアプローチできると思うのですが、そういう人物ではなかったという結論だったから、つまり物語としての平仄が合っていないというか、あのシーンだけが結果としてノイズとして浮いてしまっている気がしたんですよね。

 ともあれ、恋愛という関係性のままならなさ、ほとんど狂気と正気の狭間を行くようなどうしようもなさがよく描かれていたと思いました。誰しも過去の経験に照らして来し方を顧みてしまうような、話題になったのも納得の作品でした。

☆☆☆☆

※それはそうとして、動物飼育員なめんなとは思ったな。(一種のファンタジーとしての着地なんだとしても。)