停電の夜に(ジュンパ・ラヒリ)

 最初にクレスト・ブックスで刊行されて以来だから随分久しぶりに再読。当時も思ったけど、いかにもニューヨーカーが採用しそうな短編だなと改めて(クレスト・ブックスはこういう所を狙っている叢書です、というよいショーケースにもなっていた記憶があります)。夫婦や恋人の「倦怠もの」「すれちがいもの」が多いからそういう印象になるのかもしれない。アップダイクとかアーウィン・ショーみたいなミニマリストの系譜ですよね。

 ところで表題作の「停電の夜に」という邦題がやはりキャッチーというかすごくフックのあるタイトルで、当時広く読まれた要因はそこにもあると思うのだけど、実は原題は「A Temporary Matter」※であって、含意として考えたら、読後に立ち上がる感慨を踏まえたら、原題の方が「そういうことか…」とはなりますよね。でも上手い邦題の付け方と思います。それはさておき、こんな冷えびえとしたやりきれない話だったっけ?以前読んだ時より身につまされたな…

 再読して今回一番好きだったのは「三度目で最後の大陸」(いや前回もだったかも。なにせ20年近く前だからな、って、もうそんなになるの?)。異文化との衝突、受容を夫婦の関係との2重写しで描いている作品が多い印象だけど、しみじみ噛みしめるような味わい深さが、切れ味を重視しているほかの作品よりも今の気分に合っていました。

☆☆☆☆

※作中にあるとおり「臨時措置」ということなんだけど、その「一時的なこと」とは何だったのか、という話ですね。